
ケトジェニック中は高強度の筋力トレーニングで力が出ない
言われていること
一般的なボディビルコミュニティでの通説
「糖質がないとグリコーゲンが枯渇して、高強度トレで力が出ない。スクワットもベンチも重量が落ちる」
研究が示すこと
- 収録している Wilson ら(2020)は、レジスタンストレーニング経験のある大学生男性25名を、カロリーと窒素量(タンパク質量)を揃えたケトジェニック食群と通常の欧米型食群に分け、10週間のトレーニングを行わせた無作為化試験である。
- 筋力とパワーは、1週から11週にかけて両群で同程度に増加した。ただしこの11週には、10〜11週の糖質再導入期間が含まれている。 除脂肪量は10週時点で両群とも増加し(ケト群+2.4%、通常食群+4.4%、p<0.01)、脂肪量も両群で減少した(ケト群 −2.2±1.2kg、通常食群 −1.5±1.6kg)。
- 糖質を再導入した10〜11週の1週間では、ケト群だけ除脂肪量がさらに+4.8%増えている(p<0.0001)。 わずか1週間の変化であり、水分・グリコーゲンの再貯蔵の影響を切り分けられない。
- つまりこの試験の筋力・パワーの比較は、糖質を再導入した1週間を含む区間のものである。ケトジェニックを続けている10週目までだけを切り出した群間比較を、抄録は報告していない。 全文は購読制で、本記事は確認できていない。
- 上に挙げた除脂肪量の数値も各群内の増加であって、群間差の検定ではない。
- 「ケト適応後(4〜12週)」という期間の区切り、および「適応初期(1〜3週)は顕著なパフォーマンス低下が観察されやすい」という記述について、本記事は出典を示せない。 Wilson ら(2020)は0週・10週・11週の3時点しか測っておらず、週ごとの推移を追っていない。
- なお Vargas ら(2018)のRCTは体組成のみを評価しており、筋力は測定していない。
- 糖質の利用可能性とトレーニング適応の関係は Burke ら(2011)のレビューが整理しているが、同レビューは「train-low 戦略がよく訓練された人のパフォーマンス向上につながるかは不明」と明記している。
「糖質なしで筋力が落ちる」を支持する根拠も、否定する根拠も、本記事は収録していない。 収録している唯一の関連試験(Wilson 2020、25名)で筋力とパワーが両群同程度に増加したのは1〜11週の区間であり、この区間には糖質を再導入した最後の1週間が含まれる。ケトジェニックを続けている期間だけを切り出した群間比較は、抄録に無い。 適応の初期に何が起きるかを週単位で追った研究も持っていない。この論点は、収録範囲では決着しない。
ケトジェニックで瞬発力・スプリント・高強度インターバルのパフォーマンスが落ちる
言われていること
スポーツ栄養学・競技コーチの一般的見解
「スプリント・ジャンプ・高強度インターバルはグルコースとクレアチンリン酸が燃料。ケトジェニックではこれらが不足して瞬発力が確実に落ちる」
研究が示すこと
- 収録している Wilson ら(2020)は筋力とパワーを測っており、1〜11週で両群の増加に差は出ていない。
- ただしこの区間には糖質を再導入した1週間が含まれ、ケトジェニックを続けている期間だけの群間比較は抄録に無い。 機序の側からは、Burke ら(2011)のレビューが、競技や高強度トレーニングでは糖質の高い利用可能性が重要になると整理している。
- ただし同レビューはケトジェニック食の試験を統合したものではなく、スプリントタイムやWingate出力をケト群と対照群で比較したものでもない。 持久系では不利を示した試験がある。
- Burke ら(2017)のエリート競歩選手29名の3週間の試験では、低糖質高脂肪群で脂質酸化率が上がった一方、同じ速度に必要な酸素量が増え(エコノミーの低下)、10kmのタイムは改善しなかった(−1.6%。
- 高糖質群は+6.6%、周期化群は+5.3%)。
- これは持久系種目の結果であって、スプリントや高強度インターバルの結果ではない。 スプリント・Wingate・高強度インターバルをケトジェニック食と対照食で直接比較した試験を、本記事は収録していない。 クレアチンがATP-PCr系を支えること自体と、ケトジェニック食下での不利を補えるかは別の問題で、後者を検証した研究も持っていない。
「ケトジェニックで瞬発力が落ちる」を直接検証した研究を、本記事は収録していない。 高強度では糖質の利用可能性が重要だという整理(Burke 2011、Mata 2019)と、持久系でエコノミーが悪化してタイムが伸びなかった試験(Burke 2017)はある。一方で筋力・パワーを測った試験(Wilson 2020)は両群の増加に差を出していないが、その比較区間には糖質再導入の1週間が含まれる。スプリント・Wingate・高強度インターバルをケトジェニック食と対照食で直接比べた試験が出るまで、この論点は決着しない。 競技レベルで瞬発系種目を行う場合の判断は、この不確かさを踏まえたものになる。
ケトジェニックで筋肥大のスピードが遅くなる
言われていること
アナボリックホルモン中心のボディビルドクチコミ
「インスリンが出ないとmTORが活性化しにくく、筋タンパク合成が最大化できない。だからケトジェニックでの筋肥大は非効率」
研究が示すこと
- インスリンがmTOR活性化に必要との点は正しいが、「食事性インスリンがなければ筋肥大できない」は過大解釈。
- Mortonら(2018)のメタ分析はタンパク質補給が筋量・筋力を高めることを示したもので、低インスリン環境での筋タンパク合成を扱ったものではない。この論点について本サイトは出典を示せない。なお「体重×1.6〜2.2g/日」という範囲は Morton ら(2018)の所見ではない。同論文が示したのは、除脂肪量の増加が頭打ちになるブレークポイントの推定値1.62 g/kg/日(95%CI 1.03〜2.20)であり、著者らはこの分節回帰が統計的に有意でないこと(p=0.079)を明記している。 推奨範囲を定めた論文ではなく、本サイトはこの範囲の出典を示せない。また Antonio ら(2014)のRCTでは、タンパク質由来のカロリーを大幅に上乗せした条件で、体重・脂肪量・除脂肪量について統計的に有意な群内変化も群間差も検出されなかった(30名・8週間)。
- 検出されなかったことは、変化が無かったことの証明ではない。
- ただし増量条件で比較したVargasら(2018)のRCTでは、ケトジェニック群の筋量は-0.1kgで有意に増えず、非ケトジェニック群は+1.3kg増えており、「ケトジェニックで最大速度の筋肥大」は現実的でない可能性がある。
低インスリン環境で筋肥大がどうなるかについて、本サイトは出典を示せない。 「食事性インスリンがなければ筋肥大できない」を支持する根拠も、その逆を支持する根拠も、収録範囲には無い。この論点について本記事が言えるのはここまでである。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文2件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 「研究がほぼ一致してケトジェニックの不利を示している」という文献横断の評価と、「高強度の爆発的運動は解糖系とATP-PCr系に依存するため、ケト適応後でもグリコーゲン枯渇状態ではパフォーマンスが低下する」という機序からの断定を撤回した。スプリント・Wingate・高強度インターバルをケトジェニック食と対照食で直接比較した試験を収録していない。
撤回した原文2件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
これについては研究がほぼ一致してケトジェニックの不利を示している
高強度(VO₂max 80〜100%以上)の爆発的運動は解糖系(グリコーゲン→乳酸)とATP-PCr系に依存するため、ケト適応後でもグリコーゲン枯渇状態ではパフォーマンスが低下する
関連するサプリ
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電解質(エレクトロライト)体水分の不足(低水和)は心血管系と体温調節への負担を増やし、有酸素パフォーマンスを低下させる(Shirreffs 2011)。
MCTオイル(中鎖脂肪酸)LCTに富む食事と比べて体重が多く減った。 加重平均差 −1.53%(95%CI −2.44〜−0.63、p<0.01)。純粋なMCTでは −1.62%(95%CI −2.78〜−0.46、p<0.01)だが、中鎖と長鎖の混合(MLCT)に富む食事では有意な減量が見られなかった(He 2024)。対象は過体重・肥満の人である。

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関連する研究
出典
- Burke LM, et al. (2017) J Physiol — 低糖質高脂肪食は運動エコノミーを損ない、強化トレーニングによるパフォーマンス向上を打ち消す(エリート競歩選手29名、3週間)
- Burke LM, et al. (2011) J Sports Sci — アスリートにおける炭水化物の利用可能性と運動トレーニングへの適応(レビュー)
- Wilson JM, et al. (2020) J Strength Cond Res — ケトジェニック食が体組成・筋力・パワー・ホルモンに与える影響(レジスタンストレーニング経験のある男性25名、10週+糖質再導入1週)
- Vargas S, et al. (2018) J Int Soc Sports Nutr — エネルギー過剰下のケトジェニック食とレジスタンストレーニングが体組成に与える影響(RCT、24名。体組成のみ評価)
- Morton RW, et al. (2018) Br J Sports Med — タンパク質補給がレジスタンストレーニングによる筋量・筋力の変化に与える影響(メタ分析、49件1,863名)
- Antonio J, et al. (2014) J Int Soc Sports Nutr — 高タンパク食(体重1kgあたり4.4g)が体組成に与える影響(RCT、30名)
- Mata F, et al. (2019) Nutrients — 炭水化物の利用可能性と身体パフォーマンス(ナラティブレビュー。「普遍的な推奨は与えられない」と結論)
公開日: / 更新日:


次に読む
- 研究 vs 勘
「ケトジェニックダイエットは筋肉を落とす」は本当か? 糖質ゼロ 通説 vs 研究
「糖質をゼロにすると筋肉まで分解される」一方で「ケトで筋肉を維持しながら脂肪だけ落とせる」という真逆の主張がある。収録している研究が測ったのは体組成であり、高強度トレーニングのパフォーマンスを直接比べた試験は収録していない。 分けて整理する。
吉崎 槙吾
- 研究 vs 勘
「ケトジェニックで増量(バルク)はできない」は本当か? 糖質なしで筋肉はつくか
「ケトジェニックでの増量は非効率」「インスリンがないと筋肉がつかない」という主張と、「ケトジェニックで増量している」という実践者の声が混在する。何が正しくて何が誤解なのか、研究データを使って整理する。
吉崎 槙吾
- 解説
握力について、収録した出典が言える範囲
握力トレーニングの効果を調べた研究を、本記事は収録していない。 収録している Leong ら(2015)は17か国・139,691名を中央値4.0年追跡したコホート研究で、握力が全死因死亡(握力5kg低下あたりハザード比1.16、95%CI 1.13〜1.20、p<0.0001)・心血管死亡(1.17)・非心血管死亡(1.17)・心筋梗塞(1.07)・脳卒中(1.09)と逆相関し、全死因死亡と心血管死亡については収縮期血圧より強い予測因子だったと報告している。 収録している Bohannon(2019)は高齢者を対象としたレビューである。握力が同時点の全身筋力・上肢機能・骨密度・骨折・転倒・低栄養・認知機能低下・うつ・睡眠の問題・糖尿病・多疾患併存・生活の質をおおむね一貫して説明する指標であることを示し、健康状態が悪化するリスクのある高齢者を見つける目的で、握力を単独またはごく短い測定バッテリーの一部として日常的に用いることを推奨できると述べている。 この推奨を高齢者以外へ広げることは、同抄録からはできない。
吉崎 槙吾