
スクワットで出るホルモンが上半身も大きくするのか
言われていること
ジムでの通説、フィットネス系YouTube
スクワットやデッドリフトのような大きな種目は成長ホルモンやテストステロンを大量に分泌させる。そのホルモンが全身に回って腕や胸まで大きくする。だから脚トレをやらないと上半身も伸びない。
研究が示すこと
- 運動直後に一時的に上がるホルモンが筋肥大を生む、という因果は複数の研究で否定されている。
- West ら(2010)は、同じ人の片腕を“低ホルモン条件”、もう片腕を脚トレ併用の“高ホルモン条件”で15週鍛えたが、筋肥大にも筋力にも差がなかった(ホルモンは高ホルモン側で明確に上昇していたにもかかわらず)。
- Morton ら(2016, 49名)でも、運動後のテストステロン・GH・IGF-1の急性上昇は筋量・筋力の増加と相関しなかった。
- West & Phillips(2012, 56名)も同様で、特にテストステロンは無相関だった。
「スクワットのホルモンで上半身が育つ」は、質の高い研究ではほぼ支持されない。ただし正直に言うと、Rønnestad ら(2011, 9名)という“脚トレ併用側の腕がやや大きくなった”とする反証も1本ある。設計は似ているのに結論が逆で、しかも極小サンプル——現状は「否定が優勢だが決着はやや残る」と捉えるのが誠実。少なくとも、脚トレを上半身のための必須条件とみなす根拠は弱い。
脚は身体の土台だから、鍛えないとフレームが作られないのか
言われていること
ジムでの通説、ボディメイク指導
脚は全身を支える土台。ここを鍛えないと身体のフレームが作られず、上半身だけ発達してもバランスの悪い不安定な身体になる。
研究が示すこと
- “ホルモンで上半身が育つ”という機序は上のラウンドで否定されるが、「脚を飛ばすと損をする」という主張自体は、ホルモンとは別の量的な事実で支えられる。
- Janssen ら(2000)の全身MRI(468名)では、総骨格筋量は男性で体重の約38%に達し、加齢に伴う筋量減少は主に下肢で起こる——下肢は身体で最も大きな筋肉のかたまりだ。
- つまり脚を鍛えないことは、全身の筋量の大きな割合を伸ばさないまま放置することを意味する。
- 加えて、見た目のバランスや下半身の筋力・日常動作の土台としても脚の役割は大きい。
「脚は土台」という表現はやや比喩的だが、方向としては妥当。ホルモンを介して上半身を育てるからではなく、脚そのものが最大の筋群であり、鍛えなければ総筋量・見た目のバランス・下半身の筋力で確実に損をするから。“フレーム”を全身の筋量とバランスの意味に取れば、脚トレの価値は研究とも整合する。
上半身だけを鍛えて脚を飛ばすのは“アリ”なのか
言われていること
上半身重視のトレーニー、SNS
腕や胸を大きくしたいだけなら脚トレは要らない。上半身を集中的にやった方が、その分だけ腕や胸が伸びる。
研究が示すこと
- 上半身の成長そのものは、脚トレの有無にほとんど左右されない。
- West ら(2010)やMorton ら(2016)が示すとおり、腕や胸の筋肥大を決めるのは、その部位に十分な刺激・ボリューム・追い込みを与えられるかであって、脚トレ由来の全身ホルモンではない。
- したがって、目的が上半身の見た目だけなら、脚を飛ばしても上半身の伸びが大きく削がれることはない。
- 一方で、それは“全身の筋量やバランスを諦める”選択でもある——脚は最大の筋群だからだ(Janssen 2000)。
「上半身だけ鍛えたい」という目的に限れば、脚を飛ばしてもその上半身の発達は妨げられない——“脚をやらないと腕が伸びない”は誤り。ただし総筋量・全身のバランス・下半身の筋力を重視するなら、最大の筋群である脚を外す合理性は乏しい。要は「必須」ではなく「目的次第」。
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関連する研究
出典
- West DWD, et al. (2010) J Appl Physiol — Elevations in ostensibly anabolic hormones with resistance exercise are not required for greater gains in muscle protein synthesis or hypertrophy
- Morton RW, et al. (2016) J Appl Physiol — Muscle androgen receptor content but not systemic hormones is associated with resistance training-induced skeletal muscle hypertrophy in healthy, young men
- West DWD, Phillips SM (2012) Eur J Appl Physiol — Associations of exercise-induced hormone profiles and gains in strength and hypertrophy in a large cohort after weight training
- Rønnestad BR, Nygaard H, Raastad T (2011) Eur J Appl Physiol — Physiological elevation of endogenous hormones results in superior strength training adaptation
- Janssen I, Heymsfield SB, Wang ZM, Ross R (2000) J Appl Physiol — Skeletal muscle mass and distribution in 468 men and women aged 18-88 yr
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