ロイシンとは? 筋タンパク質合成の『スイッチ』の正体と限界
公開日: ・ 更新日:
ロイシンって結局なに? 摂れば摂るほど筋肉がつくの?
ロイシンは体内で合成できない必須アミノ酸の1つで、BCAA(分岐鎖アミノ酸)の中でも筋タンパク質合成のスイッチ役を担うとされる。1食あたりの目安量を示せる出典を、本記事は収録していない。 この『閾値』の存在自体、研究間で一致していない。またロイシンだけを摂っても、他の必須アミノ酸が不足していれば筋タンパク質合成は長く続かない。
ロイシンとは何か:BCAAの中の『トリガー』
ロイシンは体内で合成できない9種類の必須アミノ酸の1つで、バリン・イソロイシンとともにBCAA(分岐鎖アミノ酸)を構成する。3つの中でもロイシンは、運動後に細胞内のmTORC1という経路を活性化し、筋タンパク質合成(筋肉の材料が組み立てられる反応)のスイッチを入れる役割が強いとされている。
『ロイシン閾値』という仮説と、その論争
収録している Norton & Layman(2006)の抄録に、1食あたりの目安量は無い。 抄録が述べているのは、運動後の筋タンパク質合成の回復には、食事性タンパク質またはBCAAによって組織のロイシン濃度を高め、mTORの活性化を通じて開始因子4複合体の阻害を解除する必要があること、そしてロイシンのmTORへの作用がインスリンと相乗的であることまでである。 2021年のシステマティックレビュー(Zaromskyte ら)が対象とした29件のうち、仮説を支持する十分な証拠を示したのは16件だった。そのうち13件は高齢者を対象としており(うち8件は運動後に測定)、14件は単離タンパク質を投与している。 著者らは、この仮説は高齢者における摂取後のMPS応答の説明にもっとも適用でき、また食品そのものより単離タンパク質の文脈でより妥当だとしている。
- 29件中16件
- ロイシン閾値仮説を支持する十分な証拠を示した研究の数(Zaromskyte ら 2021)
ロイシン単体では続かない:材料としての限界
運動後の男性を対象にしたRCTでは、少量のホエイ(6.25g)にロイシンを足して25gのホエイと同じロイシン量にしても、運動後1〜3時間の筋タンパク質合成は25g条件と同程度まで上がった。しかし3〜5時間にかけて合成が続いたのは25gの完全なタンパク質を摂った条件だけで、ロイシンを足しただけの条件では途中で頭打ちになった。ロイシンは合成の『スイッチ』を入れられても、筋肉の材料そのもの(他の必須アミノ酸)が足りなければ合成は続かない。これは、BCAA単体のサプリが期待したほどの筋肥大効果を示しにくい理由の一つとも考えられている(詳しくは別記事「BCAAは効くのか」「EAAはBCAAより優れているのか」を参照)。
食品でのロイシン量の目安
タンパク質に含まれるロイシンの割合は食品によって差がある。収録している Norton ら(2012)が報告しているのは、ラットに与えた4種類のタンパク質のロイシン濃度(小麦6.8%・大豆8.0%・卵8.8%・ホエイ10.9%)までである。 ヒトを対象にした試験でのロイシン含有率も、製品1杯あたりのロイシン量も、収録した出典に無い数値である。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文7件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 出典を照合した結果、以前この記事が公開していた次の記述を撤回した。
①「1食あたり2〜3g程度が目安として提案されているが、この『閾値』の存在自体、研究間で一致していない」のうち、「1食あたり2〜3g程度が目安として提案されている」の部分、および②「1食あたりおよそ2〜3gのロイシンが、筋タンパク質合成を強く刺激するのに必要な目安として提案されてきた(Norton & Layman, 2006)」——同論文(PMID 16424142)の抄録は存在するが、そこに1食あたりの目安量は無い。抄録が述べているのは、運動後の筋タンパク質合成の回復には組織のロイシン濃度を高めてmTORの活性化を通じて開始因子4複合体の阻害を解除する必要があること、そしてロイシンのmTORへの作用がインスリンと相乗的であることまでである。①は文として切り出せないため原文全体を収め、撤回の範囲をここに書いている。
③「しかし2021年のシステマティックレビューが29件の研究・31の検証群を精査したところ、この仮説を支持する結果は16群、支持しない結果は15群とほぼ二分されていた」——抄録が報告しているのは29件中16件が十分な証拠を示したという数だけで、「31の検証群」も「支持しない15群」も無い。④「支持は高齢者や単離タンパク質(プロテインパウダーなど)を使った研究に偏っており、若年者や普通の食品(牛乳・肉など)での『閾値』の存在ははっきりしないとされている」——同抄録が述べているのは、16件のうち13件が高齢者を対象とし14件が単離タンパク質を投与していたということと、仮説が高齢者・単離タンパク質の文脈でより妥当だということまでで、若年者や食品での存在を否定してはいない。
⑤「人を対象にしたRCTでもホエイのロイシン含有率は約11%とほぼ同様の値で確認されており、カゼイン(約9.3%)・大豆(約8%)より高い」——収録している Tang ら(2009)の抄録に、タンパク質ごとのロイシン含有率の数値は無い。⑥「ホエイプロテイン1杯(20〜30g、タンパク質量にしておよそ16〜24g)であれば、ロイシン量は計算上1.7〜2.6g程度になり、前述の『2〜3g』の目安に近づく可能性がある」、⑦「ただしこれは含有率からの計算値であり、製品ごとの実測値ではない点には注意したい」——1杯あたりの重量もタンパク質量も、収録した出典に無い数値である。
統計カードも2枚が差し替えられている。「2〜3g」/「1食あたりの目安として提案されてきた量」と「16 vs 15」/「仮説を支持/不支持とした研究群の内訳」である。値とラベルが別フィールドに分かれていて日本語として連続した原文を取り出せないため `removed` には収められないので、ここに原文で記録する。
撤回した原文7件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
1食あたり2〜3g程度が目安として提案されているが、この『閾値』の存在自体、研究間で一致していない。
1食あたりおよそ2〜3gのロイシンが、筋タンパク質合成を強く刺激するのに必要な目安として提案されてきた(Norton & Layman, 2006)。
しかし2021年のシステマティックレビューが29件の研究・31の検証群を精査したところ、この仮説を支持する結果は16群、支持しない結果は15群とほぼ二分されていた。
支持は高齢者や単離タンパク質(プロテインパウダーなど)を使った研究に偏っており、若年者や普通の食品(牛乳・肉など)での『閾値』の存在ははっきりしないとされている。
人を対象にしたRCTでもホエイのロイシン含有率は約11%とほぼ同様の値で確認されており、カゼイン(約9.3%)・大豆(約8%)より高い。
ホエイプロテイン1杯(20〜30g、タンパク質量にしておよそ16〜24g)であれば、ロイシン量は計算上1.7〜2.6g程度になり、前述の『2〜3g』の目安に近づく可能性がある。
ただしこれは含有率からの計算値であり、製品ごとの実測値ではない点には注意したい。
関連するサプリ
PR
BCAA(分岐鎖アミノ酸)遅発性筋痛(DOMS)の軽減が報告されている。 8件の研究から37の効果を集めたメタ分析で、効果量は0.7286(95%CI 0.5017〜0.9555、p<0.001)だった。著者らはこれを「大きな減少」と表現している。ただしDOMSを評価した人数は計61名と少ない(Fedewa 2019)。このメタ分析が扱っているのは筋肉痛のみで、CKなどの筋損傷マーカーは扱っていない。

以下のリンクはアフィリエイトリンク(PR)を含みます。
関連する研究
出典
- Norton LE & Layman DK (2006) The Journal of Nutrition — leucine trigger hypothesis
- Zaromskyte G, et al. (2021) Front Nutr — ロイシン閾値仮説の検証:系統的レビュー
- Churchward-Venne TA, et al. (2012) The Journal of Physiology — leucine-enriched low-dose whey RCT
- Norton LE, et al. (2012) Nutrition & Metabolism — leucine content of dietary proteins
- Tang JE, et al. (2009) Journal of Applied Physiology — whey/casein/soy leucine content and MPS
公開日: / 更新日:


次に読む
- 研究 vs 勘
「果糖ブドウ糖液糖は異性化糖だから体に悪い」は本当か? 砂糖との違い 通説 vs 研究
「異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)は工業的に作られた不自然な糖だから、普通の砂糖より体に悪い」という主張は日本で特によく聞かれる。遊離の糖だから吸収が速いという理屈、人工的に作られているから危険という理屈、それぞれ研究は何を示しているのかを確認する。
吉崎 槙吾
- 研究 vs 勘
「果糖ブドウ糖液糖は普通の砂糖より肝臓に悪い」は本当か? 果糖代謝 通説 vs 研究
「果糖ブドウ糖液糖は普通の砂糖より肝臓に悪い」という主張は、SNSや健康情報サイトで頻繁に見かける。 先に断っておくと、収録している3件のうち、果糖ブドウ糖液糖とショ糖を直接比べたのはLi ら(2022)の1件だけであり、その研究は肝臓の指標をひとつも測っていない。 残る2件が比べているのは果糖と他の炭水化物(Chiu 2014)、果糖飲料とブドウ糖飲料(Stanhope 2009)であって、果糖ブドウ糖液糖とショ糖ではない。 したがって本記事は「果糖ブドウ糖液糖が普通の砂糖より肝臓に悪いか」という問いそのものには答えられない。 以下では、それぞれの研究が実際に比べたものを、比べたとおりに整理する。
吉崎 槙吾
- 解説
運動中の果糖+ブドウ糖の混合飲料 ─ 収録した出典が示せる範囲
まず、収録した3件のいずれも果糖ブドウ糖液糖(HFCS)そのものを扱っていない。 実際に投与した試験は Currell & Jeukendrup 2008(ブドウ糖と果糖の2:1溶液)の1件だけで、Rowlands 2015 は14件を統合した批判的レビュー(果糖+「ブドウ糖またはマルトデキストリン」)、Burke 2011 は糖質の組み合わせを特定しないレビューである。 HFCSを投与して他の糖質と比べた試験を本記事は収録していないため、以下の結果をHFCSに当てはめられるかどうかは判定できない。 摂取量の目安については、Burke ら(2011)が「長時間の種目では毎時30〜60g、2.5時間を超える種目では毎時90gまでが有益になりうる」「配合された炭水化物はそうした高い摂取速度での吸収を最大化しうる」と述べている。ただしこれは摂取の目標値であって、利用の上限ではない。 混合摂取そのものの効果について、収録した2件が示しているのは次の範囲である。 批判的レビュー(Rowlands 2015、14件・男性・主にサイクリング)では、同カロリーのブドウ糖/マルトデキストリンと比べ、果糖と、ブドウ糖またはマルトデキストリンを0.5〜1.0:1で組み合わせた飲料を1分あたり1.3〜2.4g摂ると平均パワーが1〜9%向上した(95%信頼区間 0〜19。下限は0である)。RCT(Currell & Jeukendrup 2008、男性サイクリスト8名)では、同じ摂取速度(1.8g/分)でブドウ糖+果糖2:1がブドウ糖のみより8%速くタイムトライアルを完走した。 輸送体(SGLT1・GLUT5)の機序、女性での結果、筋力トレーニングへの当てはめについては、いずれも出典を示せない。
吉崎 槙吾