
「果糖ブドウ糖液糖は普通の砂糖より肝臓に悪い」は本当か? 果糖代謝 通説 vs 研究
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「果糖ブドウ糖液糖は普通の砂糖より肝臓に悪い」という主張は、SNSや健康情報サイトで頻繁に見かける。 先に断っておくと、収録している3件のうち、果糖ブドウ糖液糖とショ糖を直接比べたのはLi ら(2022)の1件だけであり、その研究は肝臓の指標をひとつも測っていない。 残る2件が比べているのは果糖と他の炭水化物(Chiu 2014)、果糖飲料とブドウ糖飲料(Stanhope 2009)であって、果糖ブドウ糖液糖とショ糖ではない。 したがって本記事は「果糖ブドウ糖液糖が普通の砂糖より肝臓に悪いか」という問いそのものには答えられない。 以下では、それぞれの研究が実際に比べたものを、比べたとおりに整理する。
データで、白黒つけよう。
果糖ブドウ糖液糖はショ糖(普通の砂糖)より脂肪肝・肝機能悪化を招きやすいか
言われていること
反HFCS言説・一部の健康情報サイト・SNS
果糖ブドウ糖液糖はショ糖より果糖の含有率が高く、果糖は肝臓で直接脂肪に変換されるため、普通の砂糖よりも脂肪肝や肝機能悪化を招きやすい。
研究が示すこと
- 果糖ブドウ糖液糖とショ糖を直接比べたのは Li ら(2022)の系統的レビュー・メタ分析(4報9群・767名)だけである。そしてこの研究は肝内脂質もALTも、肝臓の指標をひとつも測っていない。 測られたのは体重・腹囲・BMI・体脂肪量・血中脂質・血圧・空腹時血糖・CRPで、体重をはじめこれらに群間の有意差は無かった一方、CRP(炎症の指標)はショ糖の群と比べて果糖ブドウ糖液糖の群で有意に高かった(群間差 +0.27mg/L、95%CI 0.02〜0.52、3報)。
- 摂取量は両群とも1日の総摂取カロリーの19%相当である。 空腹時血糖も測られている。 抄録は個別の数値を挙げていないが、全文(PMC9551185)が3件・6アーム・645名を統合し、群間に有意な差は無かった(加重平均差 −0.87 mg/dl、95%CI −2.56〜0.82、I²=84%)と報告している。
- 肝臓については、Chiu ら(2014)の系統的レビュー・メタ分析がある。
- ただしこれが比べているのは果糖と他の炭水化物であって、果糖ブドウ糖液糖とショ糖ではない。対象は健常者260名(8報13試験)である。 果糖を他の炭水化物と等カロリーで置き換えた7試験では影響が見られず、総エネルギーを超えて高用量の果糖を上乗せした6試験(1日+104〜220g、エネルギー+21〜35%)でのみ、肝内脂質(標準化平均差 0.45、95%CI 0.18〜0.72)とALT(平均差 4.94 U/L、95%CI 0.03〜9.85)が上昇した。 著者ら自身が、この上昇は果糖よりも過剰なエネルギーに帰属する可能性が高いとし、組み入れられた試験は少なく、その多くが小規模・短期(4週間以下)で質が低いと限界を明記している。
この論点は判定できない。 果糖ブドウ糖液糖とショ糖を肝臓の指標で比べた研究を、本サイトは収録していない。直接比較した唯一の研究(Li 2022)は肝臓を測っておらず、肝臓を測った研究(Chiu 2014)は果糖と他の炭水化物を比べたものである。糖の種類と総カロリーのどちらがより効くかを比べた研究も、本サイトは収録していない。
ジュース類を日常的に多く飲むこと自体は肝臓に負担をかけるか
言われていること
「差がない=無害」という短絡的な解釈
『HFCSとショ糖に差がない』なら、ジュースやスポーツドリンクを好きなだけ飲んでも肝臓への影響はないはずだ。
研究が示すこと
- 過体重・肥満の成人に、エネルギー必要量の25%を果糖飲料またはブドウ糖飲料で10週間摂取させたRCT(Stanhope 2009)では、両群とも同程度に体重が増えたが、内臓脂肪量は果糖の群でのみ有意に増えた。 肝臓での新規脂肪合成(de novo lipogenesis)と食後23時間のトリグリセリドAUCも、果糖の群で特異的に増えた。 空腹時のapoB・LDL・small dense LDL・酸化LDL、食後のレムナント様粒子のトリグリセリド・コレステロールも果糖の群でのみ有意に増えた。
- 空腹時血糖とインスリンが上がり、インスリン感受性が低下したのも果糖の群だけである。 一方、空腹時トリグリセリドはブドウ糖の群で約10%上がり、果糖の群では上がらなかった。 ここで注意が必要なのは、上に挙げたのがすべて「各群のなかで、摂取の前後に有意な変化があったか」という群内の結果である点である。 一方の群で有意に変化し、他方で有意に変化しなかったことは、二つの群のあいだに有意な差があったことを意味しない。 変化量を群間で比べた検定の結果を、抄録は報告していない。
- したがって「果糖のほうがブドウ糖より悪い」と本記事は結論できない。 また比べられたのは果糖飲料とブドウ糖飲料であって、果糖ブドウ糖液糖とショ糖ではない。 Chiu ら(2014)では、総エネルギーを超える高用量の果糖(1日+104〜220g、エネルギー+21〜35%)でのみ肝内脂質とALTが上がり、等カロリーの置き換えでは上がらなかった。著者らはこれを果糖よりも過剰なエネルギーに帰属する可能性が高いとしている。対象は健常者である。
エネルギー必要量の25%を糖の飲料で10週間摂ると、果糖でもブドウ糖でも体重は同程度に増える(Stanhope 2009、過体重・肥満の成人)。内臓脂肪・肝臓での脂肪合成・インスリン感受性は果糖の群でのみ有意に変化したが、これは各群のなかでの変化であって、二つの群のあいだの差を検定した結果ではない。 総エネルギーを超える高用量の果糖では肝内脂質とALTも上がる(Chiu 2014、健常者。著者らは果糖よりも過剰なエネルギーへの帰属を示唆)。 どちらも果糖ブドウ糖液糖とショ糖を比べたものではない。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文6件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 以前この記事が公開していた次の記述を撤回した。①「同じ量なら、果糖ブドウ糖液糖が普通の砂糖より特別に肝臓に悪いという根拠は乏しい」——根拠が乏しいのではなく、その比較を行った研究を収録していない、というのが正確な状態である。②「肝機能への影響を左右するのは糖の種類そのものよりも総摂取カロリーが必要量を超えているかどうか」と、これを言い換えた判定⑤「『HFCSかショ糖か』よりも『総カロリーが必要量を超えているか』が肝臓への影響を左右する」——糖の種類と総カロリーのどちらがより効くかを比べた研究を収録していない。③「ショ糖はブドウ糖と果糖が1:1で結合した二糖類で、消化管で分解された後は果糖ブドウ糖液糖(果糖42〜55%程度)とほぼ同じ形で吸収される」——収録した出典に記載が無い。④「糖の種類による優劣は小さくても、日常的な飲みすぎによる総カロリー超過は肝臓に負担をかけうる」——前半は、小さいと言えるだけの群間比較を収録していないため。Stanhope ら(2009)が報告しているのは各群のなかでの変化であって、変化量を群間で比べた検定ではない。後半は、Chiu ら(2014)が調べたのが健常者に果糖を高用量で上乗せした条件であって、飲料の飲みすぎで総カロリーが超過した場合を調べたものではないため。⑥「日常的にジュース・スポーツドリンクを大量に飲んで総カロリーが過剰になっている場合は、糖の種類を問わずリスクが上がる」——④の後半と同じ理由による。
あわせて、以前この記事が「空腹時血糖について同メタ分析は個別の数値を挙げていない」として撤回していたが、その撤回自体が誤りだったので取り消してある。全文(PMC9551185)が群間差(加重平均差 −0.87 mg/dl、95%CI −2.56〜0.82)を報告しており、いまは本文に載せている。Li ら(2022)が報告しているCRPの群間有意差に触れていなかったことも本文で補ってある。この2件は撤回ではなく復元・追記なので `removed` には収めていない。
撤回した原文6件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
同じ量なら、果糖ブドウ糖液糖が普通の砂糖より特別に肝臓に悪いという根拠は乏しい。
肝機能への影響を左右するのは糖の種類そのものよりも総摂取カロリーが必要量を超えているかどうか。
ショ糖はブドウ糖と果糖が1:1で結合した二糖類で、消化管で分解された後は果糖ブドウ糖液糖(果糖42〜55%程度)とほぼ同じ形で吸収される。
糖の種類による優劣は小さくても、日常的な飲みすぎによる総カロリー超過は肝臓に負担をかけうる。
『HFCSかショ糖か』よりも『総カロリーが必要量を超えているか』が肝臓への影響を左右する。
日常的にジュース・スポーツドリンクを大量に飲んで総カロリーが過剰になっている場合は、糖の種類を問わずリスクが上がる。
関連する研究
出典
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次に読む
- 研究 vs 勘
「果糖ブドウ糖液糖は異性化糖だから体に悪い」は本当か? 砂糖との違い 通説 vs 研究
「異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)は工業的に作られた不自然な糖だから、普通の砂糖より体に悪い」という主張は日本で特によく聞かれる。遊離の糖だから吸収が速いという理屈、人工的に作られているから危険という理屈、それぞれ研究は何を示しているのかを確認する。
吉崎 槙吾
- 解説
果糖ブドウ糖液糖とは? 作り方・区分・砂糖との違い
果糖ブドウ糖液糖は、でん粉を分解してブドウ糖にしたあと、その一部を酵素で果糖に変換(異性化)して作る液状の糖である。日本ではJAS規格で果糖含有率により「ぶどう糖果糖液糖(50%未満)」「果糖ぶどう糖液糖(50〜90%未満)」「高果糖液糖(90%以上)」に区分される。果糖は冷やしたほうが甘みを強く感じるため、清涼飲料水には果糖を多く含む「果糖ぶどう糖液糖」がよく使われるとされる(農畜産業振興機構)。 ショ糖との比較では、Li ら(2022)の系統的レビュー・メタ分析(4報9群・767名)で、体重・腹囲・BMI・体脂肪量・血中脂質・血圧に「果糖ブドウ糖液糖の群とショ糖の群のあいだの」統計学的に有意な差は無かった。これは摂取前後の変化についての結果ではなく、また有意差が無いことは差がゼロであることの証明でもない。 一方でCRP(炎症の指標)は、ショ糖の群と比べて果糖ブドウ糖液糖の群で有意に高かった(群間差 +0.27mg/L、95%CI 0.02〜0.52)。 摂取量は両群とも1日の総摂取カロリーの19%相当で、統合されたのは4報にすぎない。 空腹時血糖については、抄録は個別の数値を挙げていないが、全文(PMC9551185)が報告している。3件・6アーム・645名を統合した結果、群間に有意な差は無かった(加重平均差 −0.87 mg/dl、95%CI −2.56〜0.82、I²=84%)。
吉崎 槙吾
- 解説
運動中の果糖+ブドウ糖の混合飲料 ─ 収録した出典が示せる範囲
まず、収録した3件のいずれも果糖ブドウ糖液糖(HFCS)そのものを扱っていない。 実際に投与した試験は Currell & Jeukendrup 2008(ブドウ糖と果糖の2:1溶液)の1件だけで、Rowlands 2015 は14件を統合した批判的レビュー(果糖+「ブドウ糖またはマルトデキストリン」)、Burke 2011 は糖質の組み合わせを特定しないレビューである。 HFCSを投与して他の糖質と比べた試験を本記事は収録していないため、以下の結果をHFCSに当てはめられるかどうかは判定できない。 摂取量の目安については、Burke ら(2011)が「長時間の種目では毎時30〜60g、2.5時間を超える種目では毎時90gまでが有益になりうる」「配合された炭水化物はそうした高い摂取速度での吸収を最大化しうる」と述べている。ただしこれは摂取の目標値であって、利用の上限ではない。 混合摂取そのものの効果について、収録した2件が示しているのは次の範囲である。 批判的レビュー(Rowlands 2015、14件・男性・主にサイクリング)では、同カロリーのブドウ糖/マルトデキストリンと比べ、果糖と、ブドウ糖またはマルトデキストリンを0.5〜1.0:1で組み合わせた飲料を1分あたり1.3〜2.4g摂ると平均パワーが1〜9%向上した(95%信頼区間 0〜19。下限は0である)。RCT(Currell & Jeukendrup 2008、男性サイクリスト8名)では、同じ摂取速度(1.8g/分)でブドウ糖+果糖2:1がブドウ糖のみより8%速くタイムトライアルを完走した。 輸送体(SGLT1・GLUT5)の機序、女性での結果、筋力トレーニングへの当てはめについては、いずれも出典を示せない。
吉崎 槙吾