
EAAはBCAAより筋タンパク質合成を強力に刺激するか
言われていること
フィットネス系YouTuber、EAAサプリメーカーの訴求
BCAAはロイシンで合成スイッチを入れるが、残りの必須アミノ酸が揃っていないから不完全。EAAなら9種全部入りだから合成がちゃんと回る。EAAの方が明らかに上。
研究が示すこと
- 収録している Wolfe(2017)は、BCAA単独の摂取が同化反応を生むという主張を検討したレビューである。
- 同レビューは、後吸収状態でBCAA単独が筋タンパク質合成を最大限に刺激できる幅は筋タンパク質の分解と合成の差(合成より約30%大きい)に限られるとし、他のEAAが既存の筋タンパク質の分解からしか得られないためだと説明している。 経口BCAA単独に対する筋タンパク質合成の反応を定量したヒト研究は文献検索で見つからず、静脈内投与を評価した研究が2件あるのみだった。 その2件では、BCAAが筋タンパク質合成と分解の双方を低下させ、つまり筋タンパク質のターンオーバーを下げた。分解が合成を上回る異化的な状態は、BCAA投与中も続いた。 著者らは、BCAAの摂取が筋タンパク質合成を刺激するという主張には根拠が無いと結論している。
- 本記事はもう1件、逆の結果を報告する試験も収録している。 Jackman ら(2017)は、レジスタンストレーニング経験のある若年男性10名がレジスタンス運動の直後にBCAA 5.6gまたはプラセボを摂取した試験で、筋原線維タンパク質合成がプラセボより22%高かった(P=0.012)と報告している。 S6K1(Thr389)と PRAS40 のリン酸化もBCAA条件で高く(それぞれP=0.017、P=0.037)、著者らはBCAA単独の摂取が運動後の筋原線維タンパク質合成を高めると結論している。 Wolfe(2017)が既存の筋タンパク質の分解に触れているのは理論的な説明としてであって、測定された結果ではない。 EAA源とBCAAを比べた研究を、本記事は収録していない。
収録した2件は逆の結果を報告している。Wolfe(2017)は、静脈内BCAA投与の2件で異化的な状態が持続したとし、BCAAが筋タンパク質合成を刺激するという主張には根拠が無いと結論している。 一方 Jackman ら(2017)は、運動直後のBCAA 5.6gが筋原線維タンパク質合成をプラセボより22%高めたと報告している(10名、P=0.012)。 EAAとBCAAを直接比べた研究を、本記事は収録していない。
十分なタンパク質を食事から摂っている場合、EAA/BCAAを別に補う意味はあるか
言われていること
アドバンスドトレーニー向けコンテンツ、サプリスタック推奨系インフルエンサー
プロテインシェイクに加えてEAAを飲めばさらに効果が上がる。アミノ酸の吸収が速いから、トレ中やトレ直後はEAAの方がプロテインより優れている。
研究が示すこと
- 収録している Morton ら(2018)は、6週間以上のレジスタンストレーニングとタンパク質補給を扱った49件・1,863名のメタ分析である。
- タンパク質補給は1RM筋力(2.49kg、95%CI 0.64〜4.33)、除脂肪量(0.30kg、95%CI 0.09〜0.52)、筋線維断面積(310µm²、95%CI 51〜570)、大腿中央部の断面積(7.2mm²、95%CI 0.20〜14.30)を有意に増加させた。 収録試験のあいだのメタ回帰では、年齢が高いほど除脂肪量への上乗せ効果が小さく(−0.01kg/歳、p=0.002)、レジスタンストレーニング経験者では大きい(0.75kg、p=0.03)という関連が推定された。補給量も対象集団も試験ごとに違うので、年齢そのものの効果とは読めない。 「総タンパク質摂取量が1.62 g/kg/日を超えると、それ以上の補給では除脂肪量の増加が見られなかった」と報告されているが、この頭打ちの推定値の95%CIは1.03〜2.20で、分節回帰は統計的に有意でない(p=0.079)。この解析から『足りている』の線引きは決められない。
収録している Morton ら(2018)が示すのは、タンパク質補給がレジスタンストレーニングによる筋力・除脂肪量・筋断面積の増加を上乗せすることまでである。EAAやBCAAの追加効果を扱った研究を、本記事は収録していない。 「1.6 g/kg以上なら足りている」という線引きも、この解析からは決められない(頭打ちの推定値は1.62 g/kg/日だが95%CIは1.03〜2.20で、分節回帰は有意でない)。
BCAAはDOMSの軽減に有効か
言われていること
トレーニーの体感談、回復系サプリのレビュー記事
BCAAを飲むと翌日・翌々日の筋肉痛が明らかに和らぐ。トレ後すぐに飲むのが定番で、これは体感でも確認できる。EAAも同じように効くはず。
研究が示すこと
- Fedewa ら(2019)のメタ分析は、2007〜2017年に発表された8件から37の効果量を統合したもので、BCAA補給がプラセボより運動後の筋肉痛を減らした(効果量 0.7286、95%CI 0.5017〜0.9555、p<0.001)と報告している。
- 筋肉痛が評価されたのは61名である。ただしこのメタ分析が評価しているのは筋肉痛のみで、CK値などの筋損傷マーカーは扱っていない。
- また比較対象が「プロテインなしのプラセボ」であるため、同量のタンパク質と比べた場合の優位性は示されていない。
- 収録している Fouré & Bendahan(2017)は11件を検討した系統的レビューで、BCAA補給が運動誘発性の筋損傷の指標に有効でありうるのは、筋損傷の程度が低〜中等度で、1日200mg/kgを超える高用量を10日を超える長期にわたって摂り、とくに損傷を伴う運動の前に摂った場合だとしている。 同レビューは結果の異質性が高く、バイアスのリスクは中程度だったとも述べている。 EAAとDOMSを扱った研究を、本記事は1件も収録していない。
収録した Fedewa ら(2019)では、BCAA補給が非BCAAのプラセボより運動後の筋肉痛を減らした(効果量0.7286、95%CI 0.5017〜0.9555、p<0.001)。同メタ分析の比較対象はプロテインを含まないプラセボであり、等量のタンパク質と比べていない。 EAAとDOMSを扱った研究も、本記事は収録していない。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文12件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 出典を照合した結果、以前この記事が公開していた次の記述を撤回した。EAAとBCAAを直接比べた研究を、本記事は1件も収録していない。
①「静脈内BCAA単独投与の研究では、筋タンパク質合成と分解がともに低下し、正味の同化効果はゼロだった。」——Wolfe(2017)が述べているのは、分解が合成を上回る異化的な状態がBCAA投与中も続いたということで、「正味ゼロ」ではない。②「一方、EAAを含む完全なアミノ酸源(ホエイなど)は合成率を有意に高める。」——EAA源とBCAAを比べた研究を収録していない。③「BCAAだけでは合成の「材料」が揃わず、体は残りのEAAを調達するために既存の筋肉を分解するリスクがある(Wolfe 2017)。」——これは Wolfe の理論的な説明であって測定された結果ではない。本文では、同レビューが既存の筋タンパク質の分解に触れているのは理論的な説明としてである、という形に限定した。④「理論的・機序的にEAAはBCAAより合理的であり、この主張は強いエビデンスで支持される。」——収録している2件は逆の結果を報告している。Jackman ら(2017)は、運動直後のBCAA 5.6gが筋原線維タンパク質合成をプラセボより22%高めたとしている(10名、P=0.012)。
⑤「総タンパク質の摂取量が足りている状況で、追加のEAA/BCAAサプリが筋肥大・回復を上乗せすることを支持するRCTはほとんど存在しない(Morton et al. 2018)。」、⑥「「吸収速度」の議論については、ホエイも消化吸収が速いプロテイン源であり、EAAが著しく優位とは言い難い。」、⑦「長期的な筋肉量の差を示したデータも現時点では限定的。」、⑧「コストパフォーマンスの観点では、同じ金額でタンパク質食品やホエイを増やした方がエビデンス上は優位。」、⑨「タンパク質摂取が不足している状況、絶食トレーニング、食事からアミノ酸が摂りにくい場面には意義があるかもしれない。」——同メタ分析はタンパク質補給全体を扱ったもので、EAAやBCAAの追加効果も、吸収速度の比較も、費用対効果も扱っていない。
⑩「EAAとDOMSを直接検討した試験は現時点で少なく、BCAAよりEAAが優れているとは確言できない。」、⑪「ただし「十分なタンパク質が摂れているか」が先の問いで、摂れているならBCAAの追加効果は小さい。」、⑫「EAAとDOMSの直接エビデンスは不足しており、BCAAより優れているとは現時点では言えない。」——EAAとDOMSを扱った研究を1件も収録していないので、研究の量も評価できない。Fedewa ら(2019)の比較対象はプロテインを含まないプラセボであり、等量のタンパク質と比べていない。
撤回した原文12件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
静脈内BCAA単独投与の研究では、筋タンパク質合成と分解がともに低下し、正味の同化効果はゼロだった。
一方、EAAを含む完全なアミノ酸源(ホエイなど)は合成率を有意に高める。
BCAAだけでは合成の「材料」が揃わず、体は残りのEAAを調達するために既存の筋肉を分解するリスクがある(Wolfe 2017)。
理論的・機序的にEAAはBCAAより合理的であり、この主張は強いエビデンスで支持される。
総タンパク質の摂取量が足りている状況で、追加のEAA/BCAAサプリが筋肥大・回復を上乗せすることを支持するRCTはほとんど存在しない(Morton et al. 2018)。
「吸収速度」の議論については、ホエイも消化吸収が速いプロテイン源であり、EAAが著しく優位とは言い難い。
長期的な筋肉量の差を示したデータも現時点では限定的。
コストパフォーマンスの観点では、同じ金額でタンパク質食品やホエイを増やした方がエビデンス上は優位。
タンパク質摂取が不足している状況、絶食トレーニング、食事からアミノ酸が摂りにくい場面には意義があるかもしれない。
EAAとDOMSを直接検討した試験は現時点で少なく、BCAAよりEAAが優れているとは確言できない。
ただし「十分なタンパク質が摂れているか」が先の問いで、摂れているならBCAAの追加効果は小さい。
EAAとDOMSの直接エビデンスは不足しており、BCAAより優れているとは現時点では言えない。
関連する研究
出典
- Wolfe RR (2017) J Int Soc Sports Nutr — Branched-chain amino acids and muscle protein synthesis in humans: myth or reality?
- Jackman SR et al. (2017) Front Physiol — Branched-Chain Amino Acid Ingestion Stimulates Muscle Myofibrillar Protein Synthesis following Resistance Exercise in Humans
- Fouré A & Bendahan D (2017) Nutrients — Is Branched-Chain Amino Acids Supplementation an Efficient Nutritional Strategy to Alleviate Skeletal Muscle Damage?
- Morton RW et al. (2018) Br J Sports Med — A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength
- Fedewa MV, et al. (2019) International Journal for Vitamin and Nutrition Research — BCAAサプリと遅発性筋肉痛(DOMS)― メタ分析
公開日: / 更新日:


次に読む
- 研究 vs 勘
クレアチンモノハイドレートとクレアルカリンについて、収録した出典が言える範囲
「クレアルカリンはpH調整でモノハイドレートより吸収率が高く、少量で同等の効果が得られる」という主張は根強い。価格差を示せる出典も、形態間の優劣を比べた研究も、本記事は収録していない。
吉崎 槙吾
- 研究 vs 勘
「HMBはクレアチンを超える筋肥大サプリ」は本当か? HMB 通説 vs 研究
HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)はロイシンの代謝産物として、筋タンパク合成の促進と筋分解の抑制が期待されている。しかし「経験者への確実な効果」という宣伝文句は、研究ではどのように支持されているか。
吉崎 槙吾
- 解説
クレアチンの始め方について、収録した出典が言える範囲
収録している Kreider ら(2017)のポジションスタンドが述べているのは、クレアチン補給が筋内クレアチン濃度を高めること、短期・長期の補給(1日30gまで5年間)が健常者および乳児から高齢者までの複数の患者集団で安全かつ忍容性が高いこと、そして生涯にわたり日常的に少量(1日3g程度)を摂ることで健康上の利益が得られうること、である。 具体的な用量やローディングの手順について、本記事は出典を示せない。
吉村 浩嗣