
トレ前のスマホとメンタル疲労について、収録した出典が言える範囲
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「トレ前にSNSを見るとやる気が削がれる」「スマホをいじってから追い込めた試しがない」——ジムでよく聞く注意だ。本記事が収録しているのは2件で、標本も種目も評価項目も違う。Gantois ら(2021、16名)はハーフバックスクワットの総負荷量を、Alix-Fages ら(2023、25名)はベンチプレスの1RM・力速度プロファイルと反動跳びを測っている。2件を突き合わせて「ボリュームには効くが最大出力には効かない」と結論することはできない。それぞれが何を測って何を検出したかを並べる。
データで、白黒つけよう。
トレ前にSNSをダラダラ見ると集中が切れて追い込めない
言われていること
ジム指導者・トレーニング系インフルエンサーの間でよく言われる注意
スマホでSNSをダラダラ見てから筋トレに入ると、集中力が切れて追い込みが甘くなる。トレ前のスマホいじりは避けたほうがいい、という注意はジムでよく言われる。
研究が示すこと
- Gantoisら(2021)は、レクリエーションレベルの訓練経験を持つ成人16名を対象にクロスオーバー試験を実施した。
- トレーニング前にスマートフォンでSNSアプリを30分間使用すると、ドキュメンタリー視聴(対照条件)と比べて主観的なメンタル疲労感が有意に増加し(p=0.004)、その後のハーフバックスクワット(80%15RM×3セット)のボリュームロード(総負荷量)が有意に低下した(p=0.006)。
- ただし知覚的運動努力(RPE)やモチベーションには差がなく、対象は16名の単一研究である点は留意が必要。
トレ前のダラ見SNSがボリューム(総負荷量)を落とすという主張には、単発ながら実際のRCTの裏づけがある。ただしn=16の小規模研究のため、過度に一般化はできない。
気のせいで、最大筋力やパワーには関係ない
言われていること
一般的な反論・体感を重視する層の主張
スマホを見たくらいで筋トレの質が落ちるなんて気のせいだ。ちゃんと重量が扱えれば問題ない。
研究が示すこと
- Alix-Fagesら(2023)は、訓練経験のある成人25名を対象にランダム化二重盲検クロスオーバー試験を実施した。
- 30分間のスマホSNS利用とStroop課題(認知的干渉課題)はいずれも対照条件よりメンタル疲労の自覚を有意に高めたが(SNS: p=0.007、Stroop: p<0.001)、ベンチプレスの力速度プロファイル・1RM・反動跳び(CMJ)のいずれについても有意差は検出されず、効果量も無視できる〜小さい範囲(≤0.24)だった。
- 25名の試験で有意差が検出されなかったことは、影響が無いことの証明ではない。
Alix-Fages ら(2023)が示しているのは、訓練経験のある成人25名において、ベンチプレスの力速度プロファイル・1RM・反動跳びに有意差を検出しなかったということまでである(効果量は無視できる〜小さい範囲、≤0.24)。検出されなかったことは、影響が無いことの証明ではない。 もう1件(Gantois 2021)は別の標本・別の種目・別の評価項目であり、2件を突き合わせてアウトカム別の効果を結論づけることはできない。
じゃあトレ前のスマホは絶対ダメなのか
言われていること
極端な一般化・SNS上の断片的な言説
スマホは筋トレの敵。トレ前もインターバル中も触らないほうがいい。
研究が示すこと
- 収録した2件が用いた条件は、いずれも30分間のSNSアプリ利用である。Gantois ら(2021)の対照条件はドキュメンタリー視聴だった。Alix-Fages ら(2023)は対照課題・SNS利用・Stroop課題の3条件を比べており、SNSとStroopはどちらも対照課題よりメンタル疲労を高めた実験条件である。
- 音楽再生やタイマーのような使い方を条件に含めた試験は無い。スマホの使い方を分けて比べた研究も、注意資源を測った研究も、本記事は収録していない。 2件の結果は、それぞれ独立した記述として並べるにとどめる。 Gantois ら(2021、16名)は、ハーフバックスクワットの総負荷量が対照条件より低下したと報告している(p=0.006)。 Alix-Fages ら(2023、25名)は、ベンチプレスの1RM・力速度プロファイル・反動跳びについて有意差を検出しなかったと報告している(効果量≤0.24)。 標本・種目・評価項目が違うため、2件を突き合わせて「どの評価項目に効くか」を結論することはできない。
収録した2件が比べたのは30分間のSNSアプリ利用と対照条件だけである。スマホの使い方の区別も、休憩中の利用も、扱っていない。この論点は判定できないものとして扱う。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文9件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 導入に書いていた「実際、スマホでSNSを30分見ただけで筋トレのボリュームが落ちたとする研究がある一方、同じようにメンタル疲労を誘発しても最大挙上重量やパワー発揮には影響しなかったとする研究もある」という2件の対比、第2ラウンドの結論に書いていた「『気のせい』は言い過ぎだが、最大筋力・パワー発揮という指標に限れば『メンタル疲労はほぼ影響しない』という主張のほうが研究に支持される」「効くのは総負荷量(ボリューム)側であって、1回の最大出力ではなさそうだ」、第3ラウンドの「両研究とも、メンタル疲労を誘発したのは『SNSアプリを受動的に見る』行為であり、スマホ利用全般を否定する結果ではない」「音楽再生やインターバルタイマーなど目的を持った短時間の使用と、注意資源を消耗する長時間の受動的なSNS閲覧は区別して考える必要がある」「現時点の研究は『総負荷量(ボリューム)を落とす可能性がある』ことと『最大筋力・パワーには出にくい』ことの両方を示しており、スマホ利用全般を一律に禁止する根拠にはならない」、および第3ラウンドの結論の「問題になりうるのは受動的にSNSを長時間見て注意資源を消耗すること」「音楽やタイマーなど目的的な使用は別物として扱ってよい」「ボリュームを稼ぎたい日は、休憩中の長いSNS閲覧を控える価値はありそうだ」——をすべて撤回した。収録している2件は標本も種目も評価項目も違い、突き合わせてアウトカム別の効果を結論づけることはできない。Alix-Fages ら(2023)が有意差を検出しなかったことは、影響が無いことの証明ではない。2件が条件にしたのはどちらも30分間のSNSアプリ利用だけで、使い方を分けて比べた研究も、注意資源を測った研究も、休憩中の利用を扱った研究も、本記事は収録していない。あわせて「Gantois ら(2021)の対照条件はドキュメンタリー視聴、Alix-Fages ら(2023)の対照条件は対照課題と Stroop 課題だった」という記述を撤回した。撤回したのは後半、Alix-Fages ら(2023)の対照条件を「対照課題と Stroop 課題」としていた部分である。Stroop 課題は対照ではなく、SNS利用と同じく対照課題よりメンタル疲労を高めた実験条件だった。前半の Gantois ら(2021)の対照条件がドキュメンタリー視聴だったという記述は正しく、本文に残している。
撤回した原文9件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
実際、スマホでSNSを30分見ただけで筋トレのボリュームが落ちたとする研究がある一方、同じようにメンタル疲労を誘発しても最大挙上重量やパワー発揮には影響しなかったとする研究もある
『気のせい』は言い過ぎだが、最大筋力・パワー発揮という指標に限れば『メンタル疲労はほぼ影響しない』という主張のほうが研究に支持される
効くのは総負荷量(ボリューム)側であって、1回の最大出力ではなさそうだ
両研究とも、メンタル疲労を誘発したのは『SNSアプリを受動的に見る』行為であり、スマホ利用全般を否定する結果ではない
音楽再生やインターバルタイマーなど目的を持った短時間の使用と、注意資源を消耗する長時間の受動的なSNS閲覧は区別して考える必要がある
現時点の研究は『総負荷量(ボリューム)を落とす可能性がある』ことと『最大筋力・パワーには出にくい』ことの両方を示しており、スマホ利用全般を一律に禁止する根拠にはならない
問題になりうるのは受動的にSNSを長時間見て注意資源を消耗することで、音楽やタイマーなど目的的な使用は別物として扱ってよい
ボリュームを稼ぎたい日は、休憩中の長いSNS閲覧を控える価値はありそうだ
Gantois ら(2021)の対照条件はドキュメンタリー視聴、Alix-Fages ら(2023)の対照条件は対照課題と Stroop 課題だった
関連する研究
出典
- Gantois P et al. (2021) Percept Mot Skills — Mental Fatigue From Smartphone Use Reduces Volume-Load in Resistance Training: A Randomized, Single-Blinded Cross-Over Study
- Alix-Fages C et al. (2023) Motor Control — Mental Fatigue From Smartphone Use or Stroop Task Does Not Affect Bench Press Force–Velocity Profile, One-Repetition Maximum, or Vertical Jump Performance
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- 研究 vs 勘
「ケトジェニックは筋トレに向かない」は本当か? 筋力・瞬発力への影響を研究で検証
「ケトジェニックは筋トレに向かない」「低糖質だと瞬発力が出ない」という言説はジムでよく耳にする。スプリントや高強度インターバルをケトジェニック食と対照食で直接比べた試験を、本記事は収録していない。 収録している研究がどこまで答えているかを整理する。
吉崎 槙吾
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「フィジカルの化け物」はなぜ強いのか:体格・遺伝・才能を研究で分解する
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吉村 浩嗣
- 解説
重曹(重炭酸ナトリウム)─ 収録した3件が示している用量・タイミング・消化器症状
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吉崎 槙吾