「フィジカルの化け物」はなぜ強いのか:体格・遺伝・才能を研究で分解する
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初挑戦でベンチプレス100kg、元陸上日本記録保持者に短距離で勝つ ― そんな「フィジカルの怪物」は、いったい普通の人と何が違うのか?
大きく2つに分けられる。①体格:体が大きい(=除脂肪量が多い)ほど絶対的な筋力は高く、その正体は脂肪ではなく脂肪の下の筋肉量である。②遺伝的素因:速筋やミオスタチンに関わる遺伝子が、瞬発力や筋肉のつきやすさを左右する。ただし遺伝子1つの効果は小さく、才能は最終的に環境(トレーニング)との掛け算で決まる。
「体が大きいほど強い」は、研究でも本当だった
18〜30歳68名を調べた横断研究では、体格(BMI)が大きい人ほどレッグプレスとチェストプレスを合わせた最大筋力(絶対値)が高かった(BMIと最大筋力の相関 r=.49)。ただし主役は脂肪ではない。体重は除脂肪体重(脂肪を除いた筋肉・骨・水分など)と強く相関し(r=.70〜.80)、その除脂肪体重が挙上重量と結びついていた。つまり「重い人が強い」のは、体が大きくなる過程で一緒に増えている筋肉量による、というのがこの研究の示すところだ(ten Hoor ら 2018)。なお、これは絶対筋力の話で、体重で割った相対筋力とは別問題である。
- r=.49
- BMIと最大筋力(絶対値)の相関
- r=.70〜.80
- 体重と除脂肪体重の相関
「太って見えて中身が違う」力士の正体
その典型が力士だ。プロ力士37名・ボディビルダー14名・非鍛錬者26名を比べた研究では、力士の除脂肪体重はボディビルダーより大きく、6名は100kgを超え、最大は121.3kg(身長186cm・体重181kg)だった。体脂肪率は力士26.1%・ボディビルダー10.9%で力士のほうが高いのに、脂肪の下の筋肉・骨の量では力士が上回る(Kondo ら 1994)。冒頭の話題になったラランド・ニシダ(170cm・111kg)が初挑戦でベンチ100kgを挙げたのも、この「見た目より中身の除脂肪量が多い」構造で説明がつく。生物学的に見て熊やイノシシが力強いのも、突き詰めれば絶対的な筋量が桁違いに大きいからだ。
- 121.3kg
- 力士の除脂肪体重の最大値
- 6名
- 除脂肪体重100kg超
- 26.1%
- 力士の平均体脂肪率
瞬発力には遺伝が絡む:いわゆる「スプリント遺伝子」
一方で、体格では説明しにくいのが「瞬発力」だ。ここで登場するのがACTN3遺伝子。速筋線維(速く強く収縮するがすぐ疲れる筋線維)で働くタンパク質α-アクチニン3をコードする。約2万人を統合したメタ分析では、この遺伝子のR型を持つ人はパワー系エリート選手にやや多かった(オッズ比 約1.20、女性ではより明確で1.58)。ただし効果量は小さく、どの遺伝子型にもエリート選手は存在する(Tharabenjasin ら 2019)。「陸上の日本記録保持者に短距離で勝つ」ような瞬発力は、こうした素因が絡む領域だが、遺伝子1つで決まるわけではない。
- OR 1.20
- R型とパワー系エリートの関連(全体)
- OR 1.58
- 同・女性での関連
筋肉の「ブレーキ」が外れた者たち ― 動物とヒト
もう一つの遺伝の話が、筋肥大にブレーキをかけるホルモン「ミオスタチン」だ。このブレーキが遺伝的に効かないと、筋肉が異常に発達する。二重の筋肉を持つベルギーブルー牛や、筋骨隆々の「マイティマウス」がその例で、2004年には生まれつき極めて筋肉質なヒトの小児の症例(MSTN遺伝子の機能喪失変異)が報告された(Schuelke ら 2004)。動物が生物学的に強い背景の一端がここにある。ただしこれは極めてまれな変異の単一症例であり、一般の人に当てはまるものではない点は強調しておきたい。
- n=1
- ヒトの症例報告(まれな変異)
では、凡人はどうすれば? 才能は「素因 × 環境」
整理すると、フィジカルの化け物の正体は「大きな除脂肪量」と「遺伝的素因」の重なりだ。だが遺伝子の効果量は小さく、筋肉のつきやすさや筋線維の性質は環境要因(どうトレーニングするか)にも大きく左右される。裏を返せば、大半の人の伸びしろは、生まれつきの一発ではなく、十分な体格(除脂肪量)を地道に積み上げるトレーニングと栄養の側にある。握力のような単純な筋力指標が将来の健康とも結びつくことを踏まえれば、「怪物」に憧れるより、自分の除脂肪量を着実に増やすことのほうが、多くの人にとって実利が大きい。
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