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読みもの解説

睡眠と筋肉回復:収録した研究が測ったこと

公開日: 更新日:

執筆: 吉崎 槙吾監修: 染田 智信

睡眠時間だけじゃなくて質も大事なの? 深い眠りが筋肉回復にどう関係するの?

収録した研究が測ったのは、テストステロンとコルチゾール、筋力回復、競技パフォーマンス、睡眠の質である。成長ホルモンを測った研究は収録していない。 Leproult & Van Cauter(2011)では、10名が5時間就床を8晩続けて日中のテストステロンが10〜15%低下した(著者らいわく「小さな便宜的標本」)。別の曝露を調べた Dáttilo ら(2020)の無作為化クロスオーバー(10名)では、筋損傷後48時間の急性完全断眠でもテストステロンに差は出ず、筋力回復も遅れなかった。 上がったのはIL-6・IGF-1・コルチゾールである。慢性的な部分制限と急性の完全断眠は別の条件で、この2件は互いの追試ではない。Mah ら(2011)では睡眠を5〜7週間延長した選手11名でスプリントとシュート精度が改善したが、対照群がない。 レジスタンス運動の側については、系統的レビュー(Kovacevic 2018、13件)が慢性的な実施で睡眠の質が改善すると整理している。

1

深睡眠と成長ホルモン ─ 出典を示せない範囲

成長ホルモン(GH)の分泌が深睡眠(徐波睡眠、SWS)と結びついているという説明は広く見られる。 収録している研究はいずれもGHを測っていない。SWS中の分泌割合も、SWSを妨げる要因も、本記事は出典を示せない。 以下の節で扱うのは、テストステロンとコルチゾール、筋力回復、競技パフォーマンス、そして睡眠の質そのものである。

2

睡眠不足とホルモン・筋力回復 ─ 収録した3件が測ったこと

日中のテストステロンが10〜15%低下したという数値の出どころは Leproult & Van Cauter(2011)である。健常な若年男性10名が、実験室で10時間就床3晩(十分に眠った条件)のあと5時間就床8晩(睡眠制限)を過ごし、24時間の血液サンプリングを受けた。日中のテストステロンは10〜15%低下した。著者ら自身が「小さな便宜的標本」と書いている。 十分睡眠→制限の順に行う設計で、順序の影響を切り分けていない。比較として、通常の加齢によるテストステロン低下は年1〜2%だと同レターは述べている。 なお Dáttilo ら(2011)は Medical Hypotheses 誌の仮説論文で、睡眠負債がタンパク質合成経路の活性を下げ分解経路を上げるという仮説を提示したものである。実験でもレビューでもなく、10〜15%という数値もそこには無い。 Dáttilo ら(2011)と著者の多くが重なる Dáttilo ら(2020)は、実際に実験を行っている。そこではテストステロンに条件間の差が出ていない。 同研究は男性10名を無作為化クロスオーバーで、片脚の膝伸展を240回の伸張性収縮で損傷させたあと、48時間の完全断眠を挟む条件と3晩通常睡眠をとる条件に割り付けた。筋の随意最大収縮とクレアチンキナーゼは両条件で同等に推移し、筋力回復は遅れていない。 差が出たのはIL-6、IGF-1、コルチゾール、コルチゾール/総テストステロン比の上昇である。著者らの結論は「断眠は筋力回復を遅らせないが、炎症とホルモンの反応を変える」だった。 この2件は直接比較できない。 Leproult & Van Cauter(2011)は5時間就床を8晩続ける慢性的な部分睡眠制限を、Dáttilo ら(2020)は筋損傷後の48時間の急性完全断眠を扱っており、曝露も評価項目も違う。著者群も別である(前者は Leproult と Van Cauter、後者は Dáttilo らのグループ)。一方が他方の追試や反証ではない。並べているのは、睡眠とホルモン・回復の関係が曝露の条件によって違って見えることを示すためである。 パフォーマンスについては Mah ら(2011)がある。スタンフォード大の男子バスケットボール部員11名(平均19.4歳)が、2〜4週間の通常睡眠のあと5〜7週間、毎晩10時間以上の就床を目標に睡眠を延長した。夜間睡眠時間は110.9±79.7分増え(P<0.001)、スプリントタイムは16.2±0.61秒から15.5±0.54秒に短縮、フリースロー成功率は9%、3ポイント成功率は9.2%上昇した(いずれもP<0.001)。ただしこれは対照群を置かない前後比較で、練習の積み上がりや測定への慣れを切り分けていない。

−10〜15%
日中のテストステロン(5時間就床8晩、10名。Leproult 2011)
差なし
48時間の急性完全断眠後のテストステロンと筋力回復(10名。Dáttilo 2020)
16.2 → 15.5秒
スプリントタイム(睡眠延長5〜7週、11名、対照群なし。Mah 2011)
3

睡眠の質を高める実践的な方法

以下の①〜④について、本記事は出典を示せない。 実践として広く言われている内容だが、収録した研究が検証したものではない。 ①就寝・起床時刻の固定。②就寝1〜2時間前のブルーライト遮断。③就寝30〜60分前のアルコール回避。④寝室温度を18〜20℃に保つ。⑤マグネシウム摂取。ただし収録している Abbasi ら(2012)は原発性不眠症の高齢者46名に1日500mgを8週間投与した試験で、就寝前という条件は設定されていない。若年トレーニーでの結果でもない。 改善したのは不眠重症度指数(p=0.006)・睡眠効率(p=0.03)・入眠潜時(p=0.02)で、総睡眠時間には群間差が出ていない(p=0.37)。

4

レジスタンストレーニングと睡眠 ─ 系統的レビューが言っていること

収録している Kovacevic ら(2018)は、無作為化比較試験13件を対象とした系統的レビューである。抄録にPSQIの数値は無い。 同レビューが述べているのは、慢性的なレジスタンス運動が睡眠のあらゆる側面を改善し、とくに睡眠の質への効果が大きいということである。一方で、レジスタンス運動を有酸素運動と組み合わせた場合の効果は、有酸素運動単独と比べると小さくなる。急性効果(1回の運動の影響)については研究が乏しく結果も一貫していないと明記している。著者らは、睡眠構造の変化や生理学的機序、臨床集団での有効性、実施時刻と用量反応関係を今後の課題として挙げている。 概日リズムの同期を測った研究も、実施時刻の影響を調べた研究も、本記事は収録していない(同レビューは実施時刻の影響を今後の課題としている)。

訂正履歴訂正1回・撤回した原文13件

公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。

  • 要約に書いていた「睡眠の質(特に深睡眠・徐波睡眠)は、成長ホルモン分泌・筋タンパク質合成・神経疲労の回復に直接関与する」「7〜9時間の確保が大前提だが、同じ時間でも睡眠構造が乱れていると回復効率が著しく低下する」、第1節の「成長ホルモン(GH)の約70〜80%は深睡眠(徐波睡眠、SWS)中に分泌される」「GHは筋タンパク質合成を促進し、脂肪動員を助け、組織修復を司る」「睡眠の質が低い(SWSが少ない)と、たとえ8時間眠っても実質的なGH分泌量が大幅に減少する」「アルコール・ブルーライト・就寝直前の食事・高温環境はSWSを妨げる代表的な要因」、第2節の「Dattilo ら(2011)のレビューは、慢性的な睡眠制限(5〜6時間/夜)でテストステロンレベルが10〜15%低下し、コルチゾールが上昇することを示している」「Mah ら(2011)の観察研究では、睡眠を毎夜2時間延長させたバスケ選手がスプリント速度・シュート精度・反応時間で有意な改善を示した」「睡眠は『回復の量』として定量化できる最重要変数」、第4節の「Kovacevic ら(2018)のRCTでは、レジスタンストレーニングを行うグループが非トレーニンググループと比較してPSQI(睡眠質問票)スコアが有意に改善したことが示されている」「適度な身体活動は概日リズムの同期を助け、睡眠の深さと持続時間を向上させる」「ただし就寝2時間以内の高強度トレーニングは交感神経を活性化して入眠を妨げる可能性があるため避けるのが無難」——をすべて撤回した。収録した研究はいずれも成長ホルモンを測っていない。Dáttilo ら(2011)は Medical Hypotheses 誌の仮説論文で、実験でもレビューでもなく、10〜15%という数値もそこには無い(その数値の出どころは Leproult & Van Cauter 2011 である)。Mah ら(2011)は対照群を置かない前後比較で、反応時間は本記事が確認した範囲の報告に含まれていない。Kovacevic ら(2018)は単一のRCTではなく13件の系統的レビューで、抄録にPSQIの数値は無い。概日リズムの同期を測った研究も収録しておらず、実施時刻の影響について同レビューは「今後の課題」としている。第3節の実践項目に添えていた機序の説明「①就寝・起床時刻の固定(概日リズムの安定化)」「③就寝30〜60分前のアルコール回避(アルコールはREM睡眠とSWSを阻害する)」「④寝室温度を18〜20℃に保つ(深部体温の低下がSWS導入を促す)」も撤回した。「出典を示せない」と前置きしていたが、括弧の中では機序を断定しており、第1節で撤回した「アルコール・ブルーライト・就寝直前の食事・高温環境はSWSを妨げる」と同じ主張が残っていた。項目名だけにした。
    撤回した原文13件

    公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。

    1. 睡眠の質(特に深睡眠・徐波睡眠)は、成長ホルモン分泌・筋タンパク質合成・神経疲労の回復に直接関与する
    2. 7〜9時間の確保が大前提だが、同じ時間でも睡眠構造が乱れていると回復効率が著しく低下する
    3. 成長ホルモン(GH)の約70〜80%は深睡眠(徐波睡眠、SWS)中に分泌される
    4. GHは筋タンパク質合成を促進し、脂肪動員を助け、組織修復を司る
    5. 睡眠の質が低い(SWSが少ない)と、たとえ8時間眠っても実質的なGH分泌量が大幅に減少する
    6. アルコール・ブルーライト・就寝直前の食事・高温環境はSWSを妨げる代表的な要因
    7. Dattiloら(2011)のレビューは、慢性的な睡眠制限(5〜6時間/夜)でテストステロンレベルが10〜15%低下し、コルチゾールが上昇することを示している
    8. またMahら(2011)の観察研究では、睡眠を毎夜2時間延長させたバスケ選手がスプリント速度・シュート精度・反応時間で有意な改善を示した
    9. 睡眠は「回復の量」として定量化できる最重要変数
    10. Kovacevicら(2018)のRCTでは、レジスタンストレーニングを行うグループが非トレーニンググループと比較してPSQI(睡眠質問票)スコアが有意に改善したことが示されている
    11. 適度な身体活動は概日リズムの同期を助け、睡眠の深さと持続時間を向上させる
    12. ただし就寝2時間以内の高強度トレーニングは交感神経を活性化して入眠を妨げる可能性があるため避けるのが無難
    13. ①就寝・起床時刻の固定(概日リズムの安定化)。②就寝1〜2時間前のブルーライト遮断(スマートフォン・PC画面の制限またはブルーライトカット眼鏡)。③就寝30〜60分前のアルコール回避(アルコールはREM睡眠とSWSを阻害する)。④寝室温度を18〜20℃に保つ(深部体温の低下がSWS導入を促す)

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  • マグネシウム

    睡眠時間(p=0.002)と睡眠効率(p=0.03)が有意に改善した。 原発性不眠症の高齢者46名を、マグネシウム500mg/日群とプラセボ群に割り付けた8週間の二重盲検試験による(Abbasi 2012)。

  • メラトニン

    原発性睡眠障害では、入眠潜時の短縮と睡眠の質の改善が報告されている。 成人・小児の19件のRCT(計1,683名)のメタ分析で、入眠潜時が平均7.06分短縮(95%CI 4.37〜9.75、p<0.001)、総睡眠時間が8.25分延長(95%CI 1.74〜14.75、p=0.013)、睡眠の質の標準化平均差は0.22(95%CI 0.12〜0.32、p<0.001)だった(Ferracioli-Oda 2013)。著者ら自身が効果を「控えめ」と表現している。

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吉崎 槙吾

執筆

吉崎 槙吾

エンジニア / BODYDATAリサーチ担当

エンジニアの仕事は裏付けを取ること。筋トレの通説も、ソースコードと同じで中身を読んでから信じます。

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