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読みもの解説

鉄サプリは必要か?運動パフォーマンスと鉄欠乏のエビデンス

公開日: 更新日:

執筆: 吉崎 槙吾監修: 染田 智信

鉄サプリは運動パフォーマンスに本当に効果があるのか?

Pasricha ら(2014)のメタ分析は、生殖年齢の女性を対象に毎日の経口鉄補給と対照を比べたRCTを統合したものである。 この推定値は「生殖年齢の女性を対象とした試験全体」の平均効果であり、鉄が欠乏している人に限った効果ではない。 最大酸素摂取量が平均 +2.35 mL/(kg·分) 増加し(95%CI 0.82〜3.88、18件)、最大下運動では所定の負荷に必要な心拍数が4.05拍/分低下した(95%CI −7.25〜−0.85、6件)。ただし全体でバイアスのリスクが低いと判定されたのは24件中3件のみで、同論文も「無作為化試験の結果は一致していない」と述べている。 鉄の充足状態によって効果が変わることを示した解析を、本記事は収録していない。 したがって「鉄が欠乏している人には効くが、正常な人には効かない」という区別も、本記事は出典で裏づけられない。 吸収を高める・妨げる食べ合わせについて、本記事は出典を示せない。 収録したレビューはむしろ「吸収の低下という説明はありそうにない」としている(Beard & Tobin 2000)。鉄サプリは医学的・食事の管理下で検討するものである。まず血液検査でフェリチンを確認すること。

1

鉄の役割 ─ 収録したレビューが挙げていること

Hinton(2014)は、鉄がエネルギー代謝・酸素運搬・酸塩基平衡において重要であり、持久系アスリートのパフォーマンスに関わると整理している。Beard & Tobin(2000)は、貧血のある人では鉄欠乏が運動パフォーマンスを低下させるだけでなく、免疫機能も損ない、他の生理的な機能不全につながるとしている。 貧血に至らない鉄欠乏だけを取り出した解析も、「ミトコンドリアの電子伝達系に不可欠」という機序も、本記事は出典を示せない。 収録したレビューが挙げているのは「エネルギー代謝」という水準までである。

2

誰がリスクが高いか

Beard & Tobin(2000)は、鉄欠乏性貧血の頻度が、健康な非活動的な人よりもアスリート集団、とくに若い女性アスリートで高いと考えられるとしている。Hinton(2014)は、持久系アスリートが鉄の状態が不十分になりやすい理由として、鉄の必要量の増加と食事からの摂取不足の組み合わせを挙げ、機序として運動に伴う炎症とヘプシジン放出による鉄の隔離を説明している。 Beard & Tobin(2000)は、負の鉄バランスの多くは食事の選択で説明できるとしつつ、赤血球鉄と全身の鉄の代謝回転が速くなっている証拠もあるとしている。そして「吸収の低下や、汗・尿からの喪失の増加という説明はありそうにない」と明記している。 足底衝撃による溶血という機序も、ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収率の比較も、献血者や消化管出血の場合も、本記事は出典を示せない。

3

補給の効果 ─ 対象は生殖年齢の女性である

Pasricha ら(2014)は、生殖年齢の女性を対象に、毎日の経口鉄補給と対照を比べたRCTを統合したメタ分析である。24件が適格と判定され、22件からデータを抽出した。最大運動では最大酸素摂取量が増加し(相対値で平均差 2.35 mL/(kg·分)、95%CI 0.82〜3.88、P=0.003、18件/絶対値で 0.11 L/分、95%CI 0.03〜0.20、P=0.01、9件/全体の標準化平均差 0.37、95%CI 0.11〜0.62、P=0.005、20件)、最大下運動では所定の負荷を達成するのに必要な心拍数(平均差 −4.05拍/分、95%CI −7.25〜−0.85、P=0.01、6件)と最大酸素摂取量に対する割合(−2.68%、95%CI −4.94〜−0.41、P=0.02、6件)が低下した。 ただし全体でバイアスのリスクが低いと判定されたのは24件中3件だけである。 同論文は冒頭で「鉄の効果について無作為化試験の結果は一致していない(equivocal)」とも述べている。 対象は生殖年齢の女性であり、男性や他の年齢層に外挿できる根拠を本記事は持っていない。 またこれは試験全体の平均効果であって、鉄が欠乏している人に限った効果ではない。 鉄の充足状態によって効果が変わることを示した解析を、抄録は報告していない。 改善しないことを示す研究も、改善することを示す研究も、本記事は収録していない。鉄の過剰摂取による害についても、収録した3件は扱っていない。

+2.35 mL/(kg·分)
最大酸素摂取量の平均差。対象は生殖年齢の女性を含む試験全体(95%CI 0.82〜3.88、18件)
24件中3件
全体でバイアスのリスクが低いと判定された試験の数
4

検査が先 ─ 自己判断で始めない

Beard & Tobin(2000)は、若い女性アスリートについて「トレーニング中の鉄の状態の低下を防ぐために、医学的および食事の管理下で低用量の鉄サプリの使用を検討してもよい」としている。Hinton(2014)も、アスリートの鉄欠乏のスクリーニングについての情報と、食事の見直しまたは鉄の補給によって摂取量を増やす方法を示している。 「管理下で」という条件が本文である。 血清フェリチン・ヘモグロビンを含む血液検査で現状を把握し、医療者の判断を得てから始めること。 以下は一般に言われている注意で、本記事は裏づける出典を示せない。 読者を守る情報なので削除せず残す。 ・鉄の過剰摂取は消化器症状(便秘・吐き気)を引き起こすことがあるとされる ・ヘモクロマトーシス(鉄過剰蓄積症)の素因がある人では鉄の蓄積が問題になるとされる ・鉄が酸化ストレスを高める可能性が指摘されている サプリを自己判断で始めないこと。 なお、本記事の情報は教育・参考目的であり、医療上のアドバイスではありません。

5

食事からの摂取 ─ 検討した出典が無い

吸収を高める・妨げる食べ合わせについて、本記事は裏づける研究を1件も収録していない。 とくに注意がいるのは、Beard & Tobin(2000)が「吸収の低下という説明はありそうにない」と述べている点である。 アスリートの負の鉄バランスの主な説明は食事の選択であり、吸収の阻害ではない、というのが収録したレビューの整理である。組み合わせの工夫を強調することは、この整理と方向が合わない。 収録したレビューが挙げているのは、食事の見直しまたは鉄の補給によって摂取量を増やすという水準である(Hinton 2014)。具体的な食品の組み合わせや時間の空け方について、本記事は指示を出せない。

訂正履歴訂正1回・撤回した原文14件

公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。

  • 要約に書いていた「鉄が欠乏している場合、補給によって有酸素運動パフォーマンスが改善する」「鉄が正常な人への追加補給に効果は期待できず、過剰摂取は害になりうる」という2つの断定(同じ文の「まず血液検査でフェリチンを確認するのが順序である」は撤回していない)、第1節の「鉄はヘモグロビン(赤血球が酸素を運ぶタンパク質)の材料であり、ミトコンドリアの電子伝達系にも不可欠なミネラル」「貧血(ヘモグロビン低値)まで至らない『潜在性鉄欠乏(フェリチン低値のみ)』でも、疲労感や持久力の低下が生じる(Pasricha ら, 2014)」、統計カードの「鉄補給によるVO2max改善量(生殖年齢の女性・鉄欠乏者)=+2.35 mL/(kg·分)」、第2節の「持久系アスリート(特に長距離ランナー)では足底衝撃による赤血球破壊(溶血)が加わるため、さらにリスクが高まる」「ベジタリアン・ビーガンは植物性の非ヘム鉄しか摂れず、吸収率がヘム鉄(動物性)の2〜3分の1程度しかないため注意が必要」「献血者や消化管出血がある場合も鉄の消耗が速い」、統計カードの「植物性鉄(非ヘム鉄)の吸収率(動物性鉄との比較)=1/2〜1/3」、第3節の「鉄サプリは鉄が欠乏している人に有効だが、鉄が正常な人に追加摂取しても運動パフォーマンスは改善しない」第5節の「動物性食品(牛赤身肉・レバー・カツオ・サーモン)に多いヘム鉄は吸収率が15〜35%と高い」「ほうれん草・豆類・豆腐に含まれる非ヘム鉄はビタミンC(アスコルビン酸)と同時摂取することで吸収率が2〜3倍に高まる」「逆にコーヒー・紅茶のタンニンやカルシウムは鉄の吸収を阻害するため、鉄の多い食事とは時間を空けるのが理想」、統計カードの「ヘム鉄の吸収率=15〜35%」「ビタミンCとの同時摂取による非ヘム鉄の吸収率向上=2〜3×」——をすべて撤回した。Pasricha ら(2014)は生殖年齢の女性を対象に毎日の経口鉄補給と対照を比べたRCTを統合したもので、鉄の充足状態によって効果が変わることを示した解析を抄録は報告していない。したがって「欠乏者には効く」「正常な人には効かない」という区別を、本記事は出典で裏づけられない。貧血に至らない鉄欠乏だけを取り出した解析も、ミトコンドリアの電子伝達系という機序も、足底衝撃による溶血も、吸収率の比較も、献血者や消化管出血も、過剰摂取による害も、食べ合わせの効果も、収録した3件は扱っていない。とくに Beard & Tobin(2000)は「吸収の低下や、汗・尿からの喪失の増加という説明はありそうにない」と明記しており、吸収の工夫を強調することは収録したレビューの整理と方向が合わない。統計カードの値(+2.35 mL/(kg·分)・1/2〜1/3・15〜35%・2〜3×)と、12文字未満のラベル「ヘム鉄の吸収率」はremoved に収められないため、ここに原文のまま記録している。第5節の見出しも「食事からの摂取 ─ 組み合わせの数値は撤回する」から「食事からの摂取 ─ 検討した出典が無い」に改めた。見出しに撤回の宣言を残さないため。なお鉄の過剰摂取による害(消化器症状・ヘモクロマトーシス・酸化ストレス)は撤回していない。 第3節にあった断定的な書き方(「鉄の過剰摂取は酸化ストレスを高め、消化器症状を引き起こし、ヘモクロマトーシスのリスクを高める」)を、第4節の「一般に言われている注意で、本記事は裏づける出典を示せない」と明示した留保つきの形に改めただけである。読者を守る情報なので残している。血液検査を先に行うという助言は撤回していない。 要約の「まず血液検査でフェリチンを確認する」も、第3節の「血清フェリチン・ヘモグロビンなどを含む血液検査で現状を把握することを強く推奨する」も、本文に残している。removed には撤回した範囲だけを原文から取り出して入れている。
    撤回した原文14件

    公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。

    1. 鉄が欠乏している場合、補給によって有酸素運動パフォーマンスが改善する
    2. 鉄が正常な人への追加補給に効果は期待できず、過剰摂取は害になりうる
    3. 鉄はヘモグロビン(赤血球が酸素を運ぶタンパク質)の材料であり、ミトコンドリアの電子伝達系にも不可欠なミネラル
    4. 貧血(ヘモグロビン低値)まで至らない「潜在性鉄欠乏(フェリチン低値のみ)」でも、疲労感や持久力の低下が生じる(Pasricha ら, 2014)
    5. 鉄補給によるVO2max改善量(生殖年齢の女性・鉄欠乏者)
    6. 持久系アスリート(特に長距離ランナー)では足底衝撃による赤血球破壊(溶血)が加わるため、さらにリスクが高まる
    7. ベジタリアン・ビーガンは植物性の非ヘム鉄しか摂れず、吸収率がヘム鉄(動物性)の2〜3分の1程度しかないため注意が必要
    8. 献血者や消化管出血がある場合も鉄の消耗が速い
    9. 植物性鉄(非ヘム鉄)の吸収率(動物性鉄との比較)
    10. 鉄サプリは鉄が欠乏している人に有効だが、鉄が正常な人に追加摂取しても運動パフォーマンスは改善しない
    11. 動物性食品(牛赤身肉・レバー・カツオ・サーモン)に多いヘム鉄は吸収率が15〜35%と高い
    12. ほうれん草・豆類・豆腐に含まれる非ヘム鉄はビタミンC(アスコルビン酸)と同時摂取することで吸収率が2〜3倍に高まる
    13. 逆にコーヒー・紅茶のタンニンやカルシウムは鉄の吸収を阻害するため、鉄の多い食事とは時間を空けるのが理想
    14. ビタミンCとの同時摂取による非ヘム鉄の吸収率向上

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    生殖年齢の女性では、鉄補給が最大運動パフォーマンスを改善した。 24件のRCT(うち22件からデータ抽出)を統合したメタ分析で、相対最大酸素摂取量が平均2.35 mL/(kg·分) 増加し(95%CI 0.82〜3.88、p=0.003、18研究)、全体の標準化平均差は0.37(95%CI 0.11〜0.62、p=0.005)だった。最大下運動では、定められた仕事量を達成するのに必要な心拍数が4.05拍/分低かった(Pasricha 2014)。男性・高齢者・持久系アスリート一般に広げられる結果ではない。

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吉崎 槙吾

執筆

吉崎 槙吾

エンジニア / BODYDATAリサーチ担当

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