
ベルトなしのスクワット・デッドリフトは腰を傷める
言われていること
ジムでの通説、一部のパワーリフティングコーチ
ベルトなしで高重量を扱うのは腰に対して無謀。脊柱への圧縮力を腹圧で支えられないから、椎間板を傷めるリスクが高い。
研究が示すこと
- Harman ら(1989)は、9名が最大の90%でデッドリフトを行う条件で、ベルト着用時と非着用時の腹腔内圧(IAP)と床反力を比較した。
- ベルト着用時のほうが、IAPのピーク値・初期の立ち上がりから離床までの曲線下面積・初期の立ち上がり終了後のIAP上昇率のピーク・離床から挙上完了までの平均IAPが有意に大きかった。 著者らの結論は「ベルトの使用はIAPを高め、それが椎間板の圧迫力を減らし挙上の安全性を高めるかもしれない」であって、腰椎への負担の軽減を測定したものではない。
- 同抄録が報告しているのはIAP上昇率の「ピーク」であって、ベルトの有無による上昇の割合ではない。ブレーシング技術も、収録している2件のどちらも扱っていない。
ベルトがIAPを高めることは、収録している試験(9名・デッドリフト90%1RM)で示されている。ただし椎間板の圧迫力が実際に減るか、傷害が減るかは測定されていない——著者らも「かもしれない」と書いている。ブレーシング技術を比べた研究も、ベルトの有無と傷害を比べた研究も、本記事は収録していない。
ベルトに頼り続けると体幹が弱くなる
言われていること
ノーベルト推奨のコーチ、フィットネス系インフルエンサー
ベルトをずっと使っていると体幹の筋肉が「サボり」を覚え、自力でのIAPが弱くなる。ベルトを外したときに体幹が崩れやすくなる。
研究が示すこと
- Zink ら(2001)は、健常男性14名が90%1RMのパラレルバックスクワットを、ベルト着用と非着用で行った試験である。
- 測定した筋は外側広筋・大腿二頭筋・大内転筋・大殿筋・脊柱起立筋で、腹直筋も外腹斜筋も測っていない。 結果は、いずれの筋群でも、また関節角度のどの運動学的変数でも、条件間に有意差は検出されなかったというものである。
- 一方でベルト着用時のほうが、動作全体・下降局面・上昇局面のいずれも有意に速く完了し、バーの移動距離(前後・上下とも)とバー速度が有意に大きかった。 著者らは、ベルトの使用がバーの軌道と挙上速度に影響しうると述べている。
- ノーベルトセットを組み込んだ場合を検証した研究を、本記事は収録していない。
長期のベルト使用が体幹を弱くするかどうかを扱った研究を、本記事は収録していない。収録している Zink らは単回のスクワットでの筋電図を測ったもので、腹部の筋は測定対象に含まれていないうえ、条件間の有意差はどの筋でも検出されていない。 ベルトの使用頻度を比べた研究も収録していない。 決着させるには、ベルトの使用頻度を割り付けた長期の試験で体幹筋力を追う必要がある。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文10件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 出典を照合した結果、以前この記事が公開していた次の記述を撤回した。収録している2件は、ブレーシング技術も、腹部の筋も、ベルトの使用頻度も扱っていない。Harman ら(1989)はIAPの上昇率のピークを報告しているが、ベルトの有無による上昇の割合は示していない。
①「ベルトは腹圧(IAP)を10〜15%上昇させ、腰椎への負担を軽減する効果が示されている(Harman et al. 1989)。」——10〜15%という上昇の割合は同抄録に無い。 同抄録が報告しているのはIAPのピーク値・曲線下面積・上昇率のピーク・平均IAPが、ベルト着用時のほうが有意に大きかったということである。 著者らの結論は「ベルトの使用はIAPを高め、それが椎間板の圧迫力を減らし挙上の安全性を高めるかもしれない」であって、腰椎への負担の軽減を測定したものではない。②「ベルトなしでも十分な体幹筋活動があれば、類似した圧力を発生させられることが示されている。」、③「IAPの絶対値よりも「正しいブレーシング技術(腹部を360度に張り出す呼吸法)」が腰椎保護の主要因という見方が強い。」、④「正しいブレーシング技術があれば、ベルトなしでも安全に高重量を扱える。」、⑤「ベルトはパフォーマンスの補助具であり、体幹弱化の防止に使い方と段階的導入が重要。」——ブレーシング技術を比べた研究も、段階的導入を検討した研究も収録していない。
⑥「長期的なベルト使用で体幹筋活動が低下するという直接的なRCTエビデンスは乏しい。」——そう言えるだけの検索を行っていない。⑦「むしろ短期研究では、ベルト使用時でも体幹筋(腹直筋・外腹斜筋)の活動は維持される、またはわずかに減少する程度という結果が多い(Zink et al. 2001)。」——Zink ら(2001)が測定した筋は外側広筋・大腿二頭筋・大内転筋・大殿筋・脊柱起立筋で、腹直筋も外腹斜筋も測っていない。 結果もいずれの筋群でも有意差が検出されなかったというものである。⑧「ベルトを外したトレーニング(ノーベルトセット)を定期的に組み込めば、体幹弱化を防ぎつつベルトのメリットを享受できる。」、⑨「ベルトが体幹を弱体化させるという主張は現状エビデンスが弱い。」、⑩「ただし「常時ベルト」よりも「高重量時のみ使用+ノーベルトセットを混在させる」戦略が、予防的にもパフォーマンス上も優れると考えられる。」——ベルトの使用頻度を比べた研究を収録していない。
撤回した原文10件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
ベルトは腹圧(IAP)を10〜15%上昇させ、腰椎への負担を軽減する効果が示されている(Harman et al. 1989)。
ベルトなしでも十分な体幹筋活動があれば、類似した圧力を発生させられることが示されている。
IAPの絶対値よりも「正しいブレーシング技術(腹部を360度に張り出す呼吸法)」が腰椎保護の主要因という見方が強い。
正しいブレーシング技術があれば、ベルトなしでも安全に高重量を扱える。
ベルトはパフォーマンスの補助具であり、体幹弱化の防止に使い方と段階的導入が重要。
長期的なベルト使用で体幹筋活動が低下するという直接的なRCTエビデンスは乏しい。
むしろ短期研究では、ベルト使用時でも体幹筋(腹直筋・外腹斜筋)の活動は維持される、またはわずかに減少する程度という結果が多い(Zink et al. 2001)。
ベルトを外したトレーニング(ノーベルトセット)を定期的に組み込めば、体幹弱化を防ぎつつベルトのメリットを享受できる。
ベルトが体幹を弱体化させるという主張は現状エビデンスが弱い。
ただし「常時ベルト」よりも「高重量時のみ使用+ノーベルトセットを混在させる」戦略が、予防的にもパフォーマンス上も優れると考えられる。
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出典
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次に読む
- 解説
バルサルバ法と腹圧について、収録した出典が言える範囲
収録している MacDougall ら(1985)は、経験豊富なボディビルダー5名の上腕動脈にカテーテルを留置し、高重量挙上中の血圧を直接記録した研究である。 収縮期・拡張期血圧は各種目の短縮性収縮の局面で急速に極めて高い値まで上昇し、伸張性収縮で低下した。 最も高いピークは両脚レッグプレスで、群平均は320/250 mmHg、ある被験者では480/350 mmHg を超えた。 片腕カールをフェイラーまで続けた場合のピークは群平均255/190 mmHg だった。 単発の最大挙上時、またはフェイラーに近づいたときの口腔内圧30〜50 Torr は、観察された血圧上昇の一部がバルサルバ法によるものであることを示している。 著者らは、健常な若年者が挙上を行う際には、血管の機械的圧迫・強い昇圧反応・バルサルバ反応が組み合わさって極端な血圧上昇が生じ、比較的小さな筋量で行った場合でも血圧は極端になると結論している。
吉崎 槙吾
- 研究 vs 勘
デッドリフト vs スクワット:収録した出典が言える範囲
スクワットとデッドリフトの優劣論は根強い。Berglund ら(2015)は、デッドリフト訓練で改善しやすい機械的腰痛患者の特徴を調べている。週30〜60分の筋力トレーニング習慣は、全死因死亡リスクの低さとの関連も報告されている(Momma 2022)。両種目を直接比べた試験は収録していない。
吉崎 槙吾
- 研究 vs 勘
「体幹を鍛えれば全身のパフォーマンスが上がる」は本当か? 通説 vs 研究
「プランクや体幹トレを毎日やれば怪我が減る」「コアが強ければ全身の力も上がる」というのはフィットネス界では常識のように語られる。しかし実際にコアトレーニングが怪我予防やパフォーマンスに与える効果は、研究ではどの程度支持されているのか確認する。
吉崎 槙吾
