
炭水化物によるインスリン分泌は筋肥大を直接促進するか
言われていること
バルクアップ食事法コンテンツ・筋肥大特化栄養学ブログ
炭水化物はインスリンを上げ、インスリンが筋肉細胞へのアミノ酸取り込みを促進して筋肥大が起きる。高炭水化物食でインスリンを維持することが筋肥大の鍵だ。
研究が示すこと
- インスリンには確かに筋タンパク質合成(MPS)を促進し筋タンパク質分解(MPB)を抑制する作用がある。
- ただし摂取タンパク質によるアミノ酸の上昇だけで筋MPS刺激の最大化が可能で、炭水化物のインスリン追加上昇は必ずしも必要ではない(Staples et al. 2011)。
- 適切なタンパク質摂取がある状態では、炭水化物の追加はMPSをさらに高めないと示したRCTがある。
- 炭水化物は筋肥大を「間接的に」サポートする(エネルギー確保・トレーニングパフォーマンス維持)が、インスリン経由での直接促進効果はタンパク質と比べると限定的。
炭水化物によるインスリン追加分泌が直接筋肥大を促進するというエビデンスは弱い。タンパク質が十分あれば炭水化物がなくてもMPSは最大化できる。炭水化物のメインの役割はエネルギー確保とトレーニングパフォーマンスの維持。
低炭水化物(ケトジェニック)食でも筋肥大できるか
言われていること
炭水化物重視の栄養学者・高炭水化物派トレーナー
ケトジェニックダイエットでは筋グリコーゲンが枯渇してトレーニングのパフォーマンスが落ちるから、筋肥大は不可能か大幅に低下する。
研究が示すこと
- Wilson ら(2020)は、大学生男性25名を等カロリー・等タンパク質のケトジェニック食と通常食に分け、レジスタンストレーニングを並行して10週間、さらに1週間の糖質再導入を行って比較した。
- 除脂肪体重は10週時点で両群とも増加している(ケトジェニック群+2.4%、通常食群+4.4%、いずれも p<0.01)。
- ただしこれは各群内の増加であって、群間差の検定ではない。抄録は10週時点の群間比較を報告していないため、「通常食のほうが伸びが大きかった」とは本記事は言えない。 全文は購読制で、確認できていない。
- 糖質を再導入した10〜11週の1週間では、ケトジェニック群のみ除脂肪体重がさらに4.8%増加した(p<0.0001)。
- 筋力とパワーの伸びは1〜11週で両群同程度だったが、この区間には糖質を再導入した1週間が含まれる。 Vargas ら(2018)の8週間RCT(増量条件・24名)は群間で比べており、ケトジェニック群は脂肪量が有意に減った一方で筋量は −0.1kg と有意な増加を示さず、非ケトジェニック群は +1.3kg 増えている。
- 著者らは、エネルギー過剰下で筋量を増やす目的には向かないかもしれないと結論づけている。
- つまり糖質なしでも筋肥大は起こる。
- エネルギー過剰下で増量を狙う場面については、群間で比べた1件のRCTが糖質を含む食事に有利な結果を出している。
糖質は筋肥大に必須ではない。タンパク質と総カロリーが揃っていれば低糖質でも筋肉は増える。10週時点の +2.4% / +4.4% は各群内の増加であって、群間差の検定ではない。増量条件で群間比較した Vargas ら(2018)では、ケトジェニック群の筋量が有意に増えなかった。 増量を狙う場面では糖質を含む食事のほうが有利だという結果が1件ある、というところまでである。
トレーニング前後の炭水化物摂取は筋肥大を高めるか
言われていること
スポーツ栄養系テキスト・プロテインメーカー
トレーニング前の炭水化物摂取でグリコーゲンを補充し、トレーニング後に炭水化物でインスリンを上げてプロテインと一緒に摂ることで筋肥大が最大化される。
研究が示すこと
- トレーニング前の炭水化物摂取はグリコーゲン利用率を高め、特に高ボリューム・長時間のトレーニングにおいてパフォーマンスを維持する効果がある。
- 一方、運動後の炭水化物+タンパク質の組み合わせが炭水化物なしのタンパク質単独より筋肥大を増やすかどうかは証拠が分かれており(Staples et al. 2011)、タンパク質が十分あれば炭水化物の追加のMPS増強効果は小さい。
- エネルギーバランス(カロリー確保)と筋グリコーゲンの回復のために炭水化物は有用だが、「インスリンスパイク戦略」としての利用は過大評価されている。
トレーニング前炭水化物はパフォーマンス維持に有効。トレーニング後の炭水化物のMPS増強効果はタンパク質が十分ある場合は限定的。エネルギー確保とグリコーゲン回復の観点で摂取することが合理的。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文1件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 「10週間の比較では通常食のほうが除脂肪体重の伸びが大きかった」という記述を撤回した。根拠にしていた10週時点の +2.4% / +4.4% は各群内の増加であって、群間差の検定ではない。
撤回した原文1件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
10週間の比較では通常食の方が除脂肪体重の伸びが大きかった
関連する研究
出典
- Staples AW et al. (2011) Medicine & Science in Sports & Exercise — Carbohydrate does not augment exercise-induced protein accretion versus protein alone
- Wilson JM, et al. (2020) J Strength Cond Res — ケトジェニック食がレジスタンストレーニング男性の体組成・筋力・パワー・ホルモンに与える影響
- Burke LM et al. (2017) J Physiol — Low carbohydrate, high fat diet impairs exercise economy and negates the performance benefit from intensified training
- Vargas S, et al. (2018) J Int Soc Sports Nutr — レジスタンストレーニング中のケトジェニック食が体組成に与える効果:RCT
公開日: / 更新日:


次に読む
- 研究 vs 勘
セット間にポージングすると筋肉に効くのか? 「フレックス休憩」通説 vs 研究
セットの合間にダンベルを置き、力こぶや大腿四頭筋にグッと力を入れてポーズを取る——ジムでよく見かける光景であり、SNSでも「休憩中にフレックスするとパンプが持続して筋肥大が加速する」という主張がよく語られる。実際にセット間の休憩中に何をするかで、筋肥大の結果は変わるのだろうか。無負荷での等尺性収縮(フレックス)を検証したRCTと、質の異なるアプローチである「セット間ストレッチ」の知見を突き合わせて確認する。
吉村 浩嗣
- 研究 vs 勘
バーベル・ダンベル・マシン、筋肥大に最も効果的なのはどれか?
「フリーウェイト(バーベル・ダンベル)はマシンより優れる」「スタビライザーが働くからバーベルが最強」——フリーウェイト信仰はジムカルチャーに深く根付いている。しかし実際のところ、バーベル・ダンベル・マシンで筋肥大の差はあるのか。近年のメタ分析とRCTがその答えを示し始めている。
吉崎 槙吾
- 解説
ビギナーズゲインについて、収録した出典が言える範囲
吉崎 槙吾