本文へスキップ
BODYDATA
JPEN
研究 vs 勘

「トレ前のスマホは筋トレの質を下げる」は本当か? メンタル疲労と筋トレの科学

公開日:

執筆: 吉村 浩嗣監修: 染田 智信

「トレ前にSNSを見るとやる気が削がれる」「スマホをいじってから追い込めた試しがない」——ジムでよく聞く注意だ。実際、スマホでSNSを30分見ただけで筋トレのボリュームが落ちたとする研究がある一方、同じようにメンタル疲労を誘発しても最大挙上重量やパワー発揮には影響しなかったとする研究もある。「気のせいではない」のか「気にしすぎ」なのか、両方の研究を並べて検証する。

Round1

トレ前にSNSをダラダラ見ると集中が切れて追い込めない

言われていること

ジム指導者・トレーニング系インフルエンサーの間でよく言われる注意

スマホでSNSをダラダラ見てから筋トレに入ると、集中力が切れて追い込みが甘くなる。トレ前のスマホいじりは避けたほうがいい、という注意はジムでよく言われる。

VS

研究が示すこと

  • Gantoisら(2021)は、レクリエーションレベルの訓練経験を持つ成人16名を対象にクロスオーバー試験を実施した。
  • トレーニング前にスマートフォンでSNSアプリを30分間使用すると、ドキュメンタリー視聴(対照条件)と比べて主観的なメンタル疲労感が有意に増加し(p=0.004)、その後のハーフバックスクワット(80%15RM×3セット)のボリュームロード(総負荷量)が有意に低下した(p=0.006)。
  • ただし知覚的運動努力(RPE)やモチベーションには差がなく、対象は16名の単一研究である点は留意が必要。
判定

トレ前のダラ見SNSがボリューム(総負荷量)を落とすという主張には、単発ながら実際のRCTの裏づけがある。ただしn=16の小規模研究のため、過度に一般化はできない。

信頼度:中程度の根拠
Round2

気のせいで、最大筋力やパワーには関係ない

言われていること

一般的な反論・体感を重視する層の主張

スマホを見たくらいで筋トレの質が落ちるなんて気のせいだ。ちゃんと重量が扱えれば問題ない。

VS

研究が示すこと

  • Alix-Fagesら(2023)は、訓練経験のある成人25名を対象にランダム化二重盲検クロスオーバー試験を実施した。
  • 30分間のスマホSNS利用とStroop課題(認知的干渉課題)はいずれも対照条件よりメンタル疲労の自覚を有意に高めたが(SNS: p=0.007、Stroop: p<0.001)、ベンチプレスのForce-Velocityプロファイル・1RM・垂直跳び(CMJ)のいずれにも有意な変化はなく、効果量も無視できる〜小さい範囲(≤0.24)だった。
判定

『気のせい』は言い過ぎだが、最大筋力・パワー発揮という指標に限れば『メンタル疲労はほぼ影響しない』という主張のほうが研究に支持される。効くのは総負荷量(ボリューム)側であって、1回の最大出力ではなさそうだ。

信頼度:中程度の根拠
Round3

じゃあトレ前のスマホは絶対ダメなのか

言われていること

極端な一般化・SNS上の断片的な言説

スマホは筋トレの敵。トレ前もインターバル中も触らないほうがいい。

VS

研究が示すこと

  • 両研究とも、メンタル疲労を誘発したのは『SNSアプリを受動的に見る』行為であり、スマホ利用全般を否定する結果ではない。
  • 音楽再生やインターバルタイマーなど目的を持った短時間の使用と、注意資源を消耗する長時間の受動的なSNS閲覧は区別して考える必要がある。
  • 現時点の研究は『総負荷量(ボリューム)を落とす可能性がある』ことと『最大筋力・パワーには出にくい』ことの両方を示しており、スマホ利用全般を一律に禁止する根拠にはならない。
判定

『スマホは絶対ダメ』は言い過ぎ。問題になりうるのは受動的にSNSを長時間見て注意資源を消耗することで、音楽やタイマーなど目的的な使用は別物として扱ってよい。ボリュームを稼ぎたい日は、休憩中の長いSNS閲覧を控える価値はありそうだ。

信頼度:賛否が分かれる

公開日:

吉村 浩嗣

執筆

吉村 浩嗣

BODYDATA運営者 / INVOLVE代表

「なんとなく良さそう」で選ばない。データで確かめてから体で試す、を続けています。

プロフィールを見る
染田 智信

監修: 染田 智信

トレーニング指導とサプリメント業界での実務経験の観点から内容を確認しています

Read Next

次に読む