
好きな曲を聴くと限界までのレップ数が伸び、より追い込める
言われていること
ジム利用者・トレーニングコミュニティ全般の体感談
お気に入りの曲がかかると「あと1〜2レップ」追い込める、というのはジムでよく聞く体感談。プレイリストを気合いを入れて作り込むトレーニーは多い。
研究が示すこと
- Niering ら(2025)による41件・被験者855名を統合したメタ分析では、好みの音楽(PML)は非好み/無音条件に比べ、失敗までのレップ数(筋持久力)が有意に多かった(SMD=1.19, 95%CI [0.47, 1.90])。
- ベンチプレスを対象にしたBallmannら(2021)の小規模クロスオーバー試験でも、好みの音楽を聴いたウォームアップ後は非好みの音楽の場合より限界までのレップ数が有意に多かった(p=0.001)。
- ただしメタ分析は研究間の異質性が大きく(I²=75〜96%)、筋持久力の指標では出版バイアスの可能性も指摘されている。
好きな音楽を聴くと限界までのレップ数が実際に増える傾向は、メタ分析とRCTの両方で一貫して確認されている。ただし研究間のばらつきや出版バイアスの懸念があり、「誰にでも確実に効く」と言い切るには材料がやや弱い。俗説は方向性としては支持される。
音楽の効果は「テンションが上がるだけ」のプラセボにすぎない
言われていること
エビデンス重視派・懐疑的なトレーニーの主張
音楽を聴いてやる気が出た「気がする」だけで、実際の筋力やパフォーマンスは変わらない。単なる思い込み・プラセボ効果ではないか、という懐疑的な見方もある。
研究が示すこと
- Nieringらのメタ分析では、好みの音楽はRPE(主観的運動強度)の有意な低下(SMD=-0.36)、モチベーションの有意な向上(SMD=0.85)、感情/気分の有意な改善(SMD=1.16)に加え、パワー出力(SMD=0.47)や最大筋力(SMD=0.53)といった客観的なパフォーマンス指標でも有意な改善を示した。
- 主観的な気分の変化だけでなく、レップ数・パワー・筋力という測定可能な指標にも波及している点は、単なる思い込みでは説明しにくい。
- ただし研究の多くは短期間・単回セッションでの比較であり、「気分の改善→追い込みやすくなる」という媒介経路を完全に分離した設計ではない。
「ただの気のせい」と切り捨てるのは単純化しすぎ。心理面の改善がレップ数やパワーといった実測値にも波及しており、パフォーマンスへの実質的な効果はあると考えられる。ただし主観的な運動強度の感じ方(RPE)を変えることが中心的な機序であり、絶対的な筋力そのものを底上げするわけではない点には注意。
音楽ならなんでもいい・大音量ほど効果的
言われていること
一般的な通説・SNSでの発信
とにかく音楽をかければやる気が出る、大音量でアゲアゲの曲ほど効果が高い、というざっくりした主張もよく聞かれる。
研究が示すこと
- Nieringらのメタ分析が対象にしているのは一貫して「好みの音楽(Preferred Music Listening)」であり、比較対象は非好みの音楽または無音である。
- つまり効果は「好みの選曲」であることが前提で、非好みの音楽では効果が小さくなる、あるいは消えることが示唆されている。
- 速度(スピード)指標では有意差が出ておらず、音楽の効果がすべてのパフォーマンス要素に及ぶわけでもない。
- BallmannらのRCTでもバーベル速度(パワー指標)には条件間で有意差がなく、音量やテンポの最適値についてはメタ分析・RCTのいずれも明確な結論を出していない。
「なんでもいいから音楽をかければいい」は不正確。効果が出やすいのは本人が好きな選曲であって、非好みの曲では恩恵は乏しい。音量・テンポの最適値は個人差が大きく、パワーや繊細な動作の速度には効果が及ばない場合もある。高い集中を要する種目では、大音量の音楽がかえって妨げになる人もいると考えられる。
関連する研究
出典
- Niering M et al. (2025) BMC Sports Sci Med Rehabil — Effects of preferred music listening on physical and psychological parameters in sports: a systematic review and meta-analysis with meta-regression
- Ballmann CG et al. (2021) J Funct Morphol Kinesiol — Effects of Preferred and Non-Preferred Warm-Up Music on Resistance Exercise Performance
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