
好きな音楽でトレの質は上がるのか? 通説 vs 研究
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「ノリのいい曲をかけると限界を超えられる」「イヤホンなしのトレは物足りない」——ジムでは当たり前の光景だ。好きな音楽を聴くとやる気が出るのは体感としてわかる。しかし、それは単に気分が上がるだけの現象なのか、それともレップ数やパワーといった実際のパフォーマンスまで変えるのか。近年、好みの音楽(Preferred Music Listening)を対象にした大規模メタ分析やウォームアップ音楽のRCTが出てきたことで、この俗説を検証できるようになってきた。
データで、白黒つけよう。
好きな曲を聴くと限界までのレップ数が伸び、より追い込める
言われていること
ジム利用者・トレーニングコミュニティ全般の体感談
お気に入りの曲がかかると「あと1〜2レップ」追い込める、というのはジムでよく聞く体感談。プレイリストを気合いを入れて作り込むトレーニーは多い。
研究が示すこと
- Niering ら(2025)の41件を統合したメタ分析では、好みの音楽(PML)は非好みの音楽・無音と比べて、失敗までのレップ数(筋持久力)が有意に多かった。
- なお同論文は、身体指標の効果量が抄録と本文で食い違っている。 抄録は条件間差として筋持久力 SMD 0.72([0.42, 1.01])・最大筋力 0.53([0.20, 0.85])・パワー出力 0.47([0.12, 0.81])を挙げるが、本文の Results は同じ3指標について 1.19([0.47, 1.90])・2.37([0.72, 4.02])・1.93([0.32, 3.54])としている。
- 本文の Methods は、すべての SMD を PML と比較条件(NPML または NML)の事後値の差として算出したと記しており、この食い違いを説明できる記述は見つからなかった。どちらが正しいかを本記事は判定しない。 ベンチプレスを対象にした Ballmann ら(2021)の小規模クロスオーバー試験でも、好みの音楽でウォームアップした条件のほうが限界までのレップ数が有意に多かった(p=0.001、経験者10名)。
- 被験者855名という規模と異質性(指標により I² 75〜96%)は全文の記載である。Egger の回帰では筋持久力で有意な出版バイアスが検出されている(t=6.85、p<0.0001)。モチベーション(t=10.26)・有酸素持久力(t=15.62)・パワー出力(t=3.29)でも有意で、最大筋力・RPE・感情反応では検出されていない。
好みの音楽で限界までのレップ数が増える方向は、メタ分析と小規模試験の両方で確認されている。ただし効果の大きさは、同じ論文の抄録と本文で食い違っており、本記事はどちらが正しいかを判定しない。 筋持久力では Egger の回帰で有意な出版バイアスも検出されている(t=6.85、全文の記載)ので、効果量が過大に出ている可能性も踏まえて読む必要がある。Ballmann らは経験者10名・無音の対照条件なしの試験である。
音楽の効果は「テンションが上がるだけ」のプラセボにすぎない
言われていること
エビデンス重視派・懐疑的なトレーニーの主張
音楽を聴いてやる気が出た「気がする」だけで、実際の筋力やパフォーマンスは変わらない。単なる思い込み・プラセボ効果ではないか、という懐疑的な見方もある。
研究が示すこと
- Niering らのメタ分析では、好みの音楽で RPE(主観的運動強度)が有意に低下し(SMD −0.36)、モチベーション(0.85)と感情反応(1.16)が有意に向上した。
- 主観的な指標だけでなく、最大筋力とパワー出力という測定される指標でも、条件間の有意差が報告されている(抄録は 0.53 と 0.47、本文の Results は 2.37 と 1.93 としており、値は食い違っている)。 同メタ分析は好みの音楽と非好みの音楽/無音を比べたもので、期待効果やプラセボを分離する設計ではない。 期待効果も測定されるパフォーマンスを動かしうるので、客観指標に差が出たことだけでは機序を判定できない。
- また多くは単回セッションの比較で、心理面の変化がパフォーマンスの変化を媒介しているかも分離されていない。
好みの音楽との比較では、主観的な指標だけでなく最大筋力やパワー出力にも条件間の有意差が報告されている。ただしそれが「気のせい」なのかどうかは、収録している2件では判定できない——どちらも期待効果を分離する設計ではないためである。決着させるには、参加者に音楽の効果についての期待を伏せた設計や、期待だけを操作した対照条件を置いた試験が要る。
音楽ならなんでもいい・大音量ほど効果的
言われていること
一般的な通説・SNSでの発信
とにかく音楽をかければやる気が出る、大音量でアゲアゲの曲ほど効果が高い、というざっくりした主張もよく聞かれる。
研究が示すこと
- Niering らのメタ分析が対象にしているのは「好みの音楽(PML)」で、比較対象は非好みの音楽(NPML)または無音(NML)である。
- 抄録は、非好みの音楽が一部の心理・身体指標で無音よりわずかに高い値を示した一方、非好みの音楽との下位群比較は異質性が高く一貫しないとしている。
- スピードと有酸素持久力には利点が認められていない。 Ballmann らの試験でもバーベルの平均速度は条件間で変わらなかった(p=0.777)。
- 音量とテンポについては、収録している2件のどちらも扱っていない。
「なんでもいいから音楽をかければいい」は、この2件からは支持されない。効果が確認されているのは本人が好きな選曲との比較で、非好みの音楽との下位群比較は異質性が高く一貫しない。スピードと有酸素持久力には利点が認められておらず、Ballmann らでもバーベル速度は変わらなかった。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文5件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 出典を照合した結果、以前この記事が公開していた次の記述を撤回した。収録している2件(Niering ら 2025・Ballmann ら 2021)は、音量もテンポも扱っておらず、期待効果やプラセボを分離する設計でもない。
①「主観的な気分の変化だけでなく、レップ数・パワー・筋力という測定可能な指標にも波及している点は、単なる思い込みでは説明しにくい」、②「「ただの気のせい」と切り捨てるのは単純化しすぎ。心理面の改善がレップ数やパワーといった実測値にも波及しており、パフォーマンスへの実質的な効果はあると考えられる」、③「ただし主観的な運動強度の感じ方(RPE)を変えることが中心的な機序であり、絶対的な筋力そのものを底上げするわけではない点には注意」——同メタ分析は好みの音楽と非好みの音楽/無音を比べたもので、期待効果を分離する設計ではない。期待効果も測定されるパフォーマンスを動かしうるので、客観指標に差が出たことだけでは機序を判定できない。③のように機序を特定することも、同じ理由でできない。
④「音量・テンポの最適値は個人差が大きく、パワーや繊細な動作の速度には効果が及ばない場合もある」、⑤「高い集中を要する種目では、大音量の音楽がかえって妨げになる人もいると考えられる」——音量もテンポも、収録した2件のどちらも扱っていない。
撤回した原文5件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
主観的な気分の変化だけでなく、レップ数・パワー・筋力という測定可能な指標にも波及している点は、単なる思い込みでは説明しにくい。
「ただの気のせい」と切り捨てるのは単純化しすぎ。心理面の改善がレップ数やパワーといった実測値にも波及しており、パフォーマンスへの実質的な効果はあると考えられる。
ただし主観的な運動強度の感じ方(RPE)を変えることが中心的な機序であり、絶対的な筋力そのものを底上げするわけではない点には注意。
音量・テンポの最適値は個人差が大きく、パワーや繊細な動作の速度には効果が及ばない場合もある。
高い集中を要する種目では、大音量の音楽がかえって妨げになる人もいると考えられる。
関連する研究
出典
- Niering M et al. (2025) BMC Sports Sci Med Rehabil — Effects of preferred music listening on physical and psychological parameters in sports: a systematic review and meta-analysis with meta-regression
- Ballmann CG et al. (2021) J Funct Morphol Kinesiol — Effects of Preferred and Non-Preferred Warm-Up Music on Resistance Exercise Performance
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