本文へスキップ
BODYDATA
JPEN
研究 vs 勘

イメージするだけで筋力は上がるのか? ── 想像トレーニングの科学

公開日:

執筆: 吉村 浩嗣監修: 染田 智信

「頭の中で最大の力を込めて握りしめることを想像するだけで、実際に筋力が上がる」——にわかには信じがたい話だ。プラシーボかオカルトのように聞こえるが、実は1990年代から続く一連のランダム化比較試験(RCT)が、地味ながら一貫してこの現象を報告してきた。「動かさなきゃ意味がない」という現場の常識は、どこまで正しいのか。

Round1

想像だけの「イメージトレーニング」で筋力は本当に上がるのか

言われていること

一般的な常識・トレーニング指導の通念

頭の中でどれだけ強く力を込めるのを想像しても、実際に筋肉を動かさなければ何も変わらない。筋トレは体を動かしてなんぼだ。

VS

研究が示すこと

  • Yue & Cole(1992)は、健康な成人30名を「実際に小指外転筋を最大収縮させる群」「収縮を想像するだけの群」「何もしない対照群」にランダム割付し、4週間トレーニングさせた。
  • 想像群でも筋力が約22%増加し(実収縮群は約30%、対照群は3.7%)、反対側の訓練していない指でも筋力向上がみられた。
  • Ranganathan ら(2004)による追試でも、想像トレーニングのみで小指外転筋力が約35%、肘屈筋力が約13.5%増加し、有意な効果が再現されている。
判定

「動かさなきゃ意味がない」は言い過ぎで、想像するだけのトレーニングでも小規模RCTでは繰り返し有意な筋力増加が確認されている。ただし、いずれも各群10名前後という小規模な研究であり、効果量も実際に体を動かした群には及ばない。

信頼度:中程度の根拠
Round2

上がった筋力の正体は筋肉ではなく神経(中枢)の適応

言われていること

一般的な筋トレの理解

筋力が上がったのなら、当然その筋肉自体が変化したはずだ(太くなった、あるいは動員できる筋線維が増えたなど)。

VS

研究が示すこと

  • Yue & Cole(1992)では、電気刺激によって強制的に引き出した攣縮力(筋肥大があれば増えるはずの指標)は、想像群・実収縮群・対照群のいずれでも変化がなかった。
  • 筋肥大を伴わずに筋力だけが上がったことになる。
  • さらにRanganathan ら(2004)では、筋力増加と並行して脳波(EEG)由来の皮質電位が上昇しており、脳の運動野の活動変化が筋力向上を伴っていたことが示された。
  • EMGと筋力増加の相関も弱いことから、筋自体というより中枢神経系の運動プログラムの変化が主因と考えられている。
判定

少なくとも短期間の想像トレーニングによる筋力増加は、筋肥大ではなく脳・神経系の適応によるものだと考えられる。ただし正確な神経メカニズムはまだ完全には解明されておらず、断定はできない。

信頼度:中程度の根拠
Round3

ケガでギプス固定中の筋力低下も、イメージで軽減できるか

言われていること

リハビリ・ケガに関する一般的な諦め

骨折してギプスをしている間は、どうせ動かせないんだから筋力が落ちるのは仕方がない。

VS

研究が示すこと

  • Clark ら(2014)は、健康な若年成人44名を「手関節を4週間ギプス固定」「固定+毎日メンタルイメージ(強い収縮を想像)」「介入なしの対照」にランダム割付した。
  • 固定のみの群は筋力が平均45%低下したのに対し、固定+イメージ群の低下は平均24%にとどまり、筋力低下がおよそ半分に抑えられた。
  • 随意活性化の障害や皮質性抑制の指標も、イメージ群でより小さかった。
判定

健康な若年成人を対象にした単一のRCTでは、固定中のメンタルイメージが筋力低下を有意に軽減した。廃用性筋力低下・リハビリの補助として有望だが、実際の骨折患者や高齢者での再現、詳細な応用法は専門家に相談すべき段階。

信頼度:中程度の根拠
Round4

では、ジムでもイメトレだけでOKなのか

言われていること

上記の研究結果を拡大解釈した俗説

イメージトレーニングだけで筋力が上がるなら、わざわざジムに行かず家で想像するだけでいいのではないか。

VS

研究が示すこと

  • Ranganathan ら(2004)では、実際に体を動かして鍛えた群の筋力増加が約53%だったのに対し、想像トレーニングのみの群は約35%(小指外転)・約13.5%(肘屈曲)にとどまり、実トレーニングには及ばなかった。
  • 想像トレーニングの効果はいずれの研究でも小規模・短期間で、筋肥大や動作パフォーマンスの向上を裏づけるデータではない。
判定

イメージトレーニングは実際の筋トレの代替にはならない。有望なのはあくまで補助・維持策としての役割で、ケガや固定中で体を動かせない期間の萎縮・筋力低下を和らげる用途が現実的。ジムでの実トレーニングをやめてイメトレに置き換える根拠にはならない。

信頼度:強い根拠あり

公開日:

吉村 浩嗣

執筆

吉村 浩嗣

BODYDATA運営者 / INVOLVE代表

「なんとなく良さそう」で選ばない。データで確かめてから体で試す、を続けています。

プロフィールを見る
染田 智信

監修: 染田 智信

トレーニング指導とサプリメント業界での実務経験の観点から内容を確認しています

Read Next

次に読む