
想像だけの「イメージトレーニング」で筋力は本当に上がるのか
言われていること
一般的な常識・トレーニング指導の通念
頭の中でどれだけ強く力を込めるのを想像しても、実際に筋肉を動かさなければ何も変わらない。筋トレは体を動かしてなんぼだ。
研究が示すこと
- Yue & Cole(1992)は、被験者を「実際に小指外転筋を最大収縮させる群」「収縮を想像するだけの群」「何もしない対照群」に分け、4週間・週5回トレーニングさせた。
- 想像群でも筋力が約22%増加し(実収縮群は約30%、対照群は3.7%)、反対側の訓練していない指でも筋力向上がみられた。
- Ranganathan ら(2004)による追試でも、想像トレーニングのみで小指外転筋力が約35%、肘屈筋力が約13.5%増加し、有意な効果が再現されている。
「動かさなきゃ意味がない」は言い過ぎで、想像するだけのトレーニングでも、収録したRCTでは有意な筋力増加が確認されている(Yue & Cole 1992 で約22%、Ranganathan ら 2004 で約35%と13.5%)。効果量は実際に体を動かした群には及ばない。
上がった筋力の正体は筋肉ではなく神経(中枢)の適応
言われていること
一般的な筋トレの理解
筋力が上がったのなら、当然その筋肉自体が変化したはずだ(太くなった、あるいは動員できる筋線維が増えたなど)。
研究が示すこと
- Yue & Cole(1992)では、電気刺激によって強制的に引き出した攣縮力(筋肥大があれば増えるはずの指標)は、想像群・実収縮群・対照群のいずれでも変化がなかった。
- 筋肥大を伴わずに筋力だけが上がったことになる。
- さらにRanganathan ら(2004)では、筋力増加と並行して脳波(EEG)由来の皮質電位が上昇しており、脳の運動野の活動変化が筋力向上を伴っていたことが示された。
- EMGと筋力増加の相関も弱いことから、筋自体というより中枢神経系の運動プログラムの変化が主因と考えられている。
少なくとも短期間の想像トレーニングによる筋力増加は、筋肥大ではなく脳・神経系の適応によるものだと考えられる。ただし正確な神経メカニズムはまだ完全には解明されておらず、断定はできない。
ケガでギプス固定中の筋力低下も、イメージで軽減できるか
言われていること
リハビリ・ケガに関する一般的な諦め
骨折してギプスをしている間は、どうせ動かせないんだから筋力が落ちるのは仕方がない。
研究が示すこと
- Clark ら(2014)は、健常者を「手関節を4週間ギプス固定」「固定+週5日のメンタルイメージ(強い収縮を想像)」「介入なしの対照」に分けた。
- 固定のみの群は筋力が平均45%低下したのに対し、固定+イメージ群の低下は平均24%にとどまり、筋力低下がおよそ半分に抑えられた。
- 随意活性化の障害や皮質性抑制の指標も、イメージ群でより小さかった。
収録している単一のRCTでは、固定中のメンタルイメージが筋力低下を有意に軽減した(固定のみ45.1%低下に対し、イメージ併用は23.8%)。
では、ジムでもイメトレだけでOKなのか
言われていること
上記の研究結果を拡大解釈した俗説
イメージトレーニングだけで筋力が上がるなら、わざわざジムに行かず家で想像するだけでいいのではないか。
研究が示すこと
- Ranganathan ら(2004)では、実際に体を動かして鍛えた群の筋力増加が約53%だったのに対し、想像トレーニングのみの群は約35%(小指外転)・約13.5%(肘屈曲)にとどまり、実トレーニングには及ばなかった。
- 収録した試験はいずれも4〜12週間で、筋肥大や動作パフォーマンスの向上を測ったものではない。
収録した試験では、実際に体を動かした群の筋力増加が想像トレーニングのみの群を上回っている(Ranganathan ら 2004 で約53%対約35%・13.5%)。イメージトレーニングの用途ごとの適否を比べた研究を、本記事は収録していない。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文10件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 収録した3件の抄録が支えていない「規模」の評価と「用途」の評価を、本文から撤回して訂正履歴に移した。
[導入] ①「実は1990年代から続く一連のランダム化比較試験(RCT)が、地味ながら一貫してこの現象を報告してきた。」 ── 撤回したのは「一連の」と「地味ながら一貫して」の2点。収録3件が報告していることは同じではない。Yue & Cole(1992)と Ranganathan ら(2004)は想像だけで筋力が増えたことを、Clark ら(2014)は固定による筋力低下が軽減されたことを報告しており、後者は筋力の増加ではない。そのうえ、この分野の試験が一貫しているかを評価した資料(系統的レビューなど)を収録していない。
[第1ラウンド] ②「Yue & Cole(1992)は、健康な成人30名を」(研究側)── Yue & Cole(1992)の抄録に被験者数の記載が無い。30名は Ranganathan ら(2004)の人数だった。③「小規模RCTでは繰り返し有意な筋力増加が確認されている」(結論)── 撤回したのは「小規模」と「繰り返し」の2点。人数が抄録から分かるのは Ranganathan ら(2004)だけで、収録3件だけから「繰り返し」とは言えない。④「ただし、いずれも各群10名前後という小規模な研究であり」(結論)── 「いずれも」が成り立たない。Ranganathan ら(2004)の抄録は健常者30名(イメージ2群が各8名、対照8名、ほかに身体トレーニング6名)と書いているが、Yue & Cole(1992)と Clark ら(2014)の抄録には被験者数の記載が無い。したがって「小規模」も3件すべてには当てはめられない。
[第3ラウンド] ⑤「Clark ら(2014)は、健康な若年成人44名を」(研究側)── Clark ら(2014)の抄録は対象を "healthy individuals" とだけ記しており、人数も年齢層も述べていない。⑦「健康な若年成人を対象にした単一のRCTでは、固定中のメンタルイメージが筋力低下を有意に軽減した。」(結論)── 同じ理由で「健康な若年成人を対象にした」も外し、収録している単一の試験だという書き方に改めた。⑧「廃用性筋力低下・リハビリの補助として有望だが、実際の骨折患者や高齢者での再現、詳細な応用法は専門家に相談すべき段階。」(結論)── 命題は2つある。(a) 固定中のメンタルイメージが廃用性の筋力低下やリハビリの補助として有望だという評価、(b) 骨折患者や高齢者での再現と応用法は専門家に相談すべき段階だという助言。同試験が対象にしたのは手関節を4週間固定した健常者で、患者集団でも高齢者でもない。臨床応用の見通しを述べた出典も、相談の要否を扱った出典も収録していない。
[第4ラウンド] ⑨「想像トレーニングの効果はいずれの研究でも小規模・短期間で」(研究側)── 「小規模」は上と同じ理由で示せない。「短期間」は評価語のまま置かず、収録した試験の期間そのもの(4〜12週間)を書く形に改めた。⑩「有望なのはあくまで補助・維持策としての役割で、ケガや固定中で体を動かせない期間の萎縮・筋力低下を和らげる用途が現実的。」(結論)── 命題は2つある。(a) 補助・維持策としての役割が有望だという評価、(b) ケガや固定中の萎縮・筋力低下を和らげる用途が現実的だという評価。用途ごとの適否を比べた研究を収録していない。なお収録3件が測ったのは筋力(と皮質の指標)で、萎縮そのものを測ってはいない。
[第3ラウンドの介入頻度] ⑥「固定+毎日メンタルイメージ」 ── Clark ら(2014)の抄録は 5 days/wk と書いているので、「毎日」を「週5日」に改めた。訂正後の文が原文とほぼ同じ語でできているため、原文のうち訂正した箇所だけを逐語で記録している(文全体を入れると残存検査が発火する)。
撤回した原文10件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
実は1990年代から続く一連のランダム化比較試験(RCT)が、地味ながら一貫してこの現象を報告してきた。
Yue & Cole(1992)は、健康な成人30名を
小規模RCTでは繰り返し有意な筋力増加が確認されている
ただし、いずれも各群10名前後という小規模な研究であり
Clark ら(2014)は、健康な若年成人44名を
固定+毎日メンタルイメージ
健康な若年成人を対象にした単一のRCTでは、固定中のメンタルイメージが筋力低下を有意に軽減した。
廃用性筋力低下・リハビリの補助として有望だが、実際の骨折患者や高齢者での再現、詳細な応用法は専門家に相談すべき段階。
想像トレーニングの効果はいずれの研究でも小規模・短期間で
有望なのはあくまで補助・維持策としての役割で、ケガや固定中で体を動かせない期間の萎縮・筋力低下を和らげる用途が現実的。
関連する研究
出典
- Yue G, Cole KJ (1992) J Neurophysiol — Strength increases from the motor program: comparison of training with maximal voluntary and imagined muscle contractions
- Ranganathan VK et al. (2004) Neuropsychologia — From mental power to muscle power—gaining strength by using the mind
- Clark BC et al. (2014) J Neurophysiol — The power of the mind: the cortex as a critical determinant of muscle strength/weakness
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次に読む
- 解説
初心者の筋力向上について、収録した出典が言える範囲
収録している Moritani & deVries(1979)が報告しているのは、初期の筋力増加の大部分が神経要因によること、その後は神経要因と筋肥大の双方が寄与し、最初の3〜5週を過ぎると筋肥大が優勢になることまでである(若年男性7名・女性8名、8週間の等張性トレーニング)。 初期の過ごし方が長期の成長を左右するという評価は、同抄録が扱っていない。
吉崎 槙吾
- 研究 vs 勘
「ケトジェニックは筋トレに向かない」は本当か? 筋力・瞬発力への影響を研究で検証
「ケトジェニックは筋トレに向かない」「低糖質だと瞬発力が出ない」という言説はジムでよく耳にする。スプリントや高強度インターバルをケトジェニック食と対照食で直接比べた試験を、本記事は収録していない。 収録している研究がどこまで答えているかを整理する。
吉崎 槙吾
- 解説
「フィジカルの化け物」はなぜ強いのか:体格・遺伝・才能を研究で分解する
研究から言えるのは集団レベルの傾向だけで、特定の誰かの強さを説明するものではない。そのうえで大きく2つに分けられる。①体格:体重・BMI、除脂肪量(脂肪を除いた筋肉・骨・水分の合計)、絶対的な筋力は互いに相関する。ただし「脂肪ではなく筋肉が効いている」という読み方は、除脂肪量を介した媒介も脂肪の独立した寄与も解析していない横断研究からは出せない。 ②遺伝的素因:ACTN3のR型アレルはパワー系のエリート選手にやや多い(オッズ比1.21)。ただしこれは集団レベルの関連であり、素因と環境がどの割合で効くのかを比べた研究は本記事に収録していない。
吉村 浩嗣