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研究 vs 勘

「筋が長い状態でのトレーニングは筋肥大に優れる」は本当か? 可動域と筋肥大の科学

公開日: 更新日:

執筆: 吉崎 槙吾監修: 染田 智信

「筋肉を十分に伸ばした状態で力を発揮する種目(ストレッチ種目)は筋肥大に最も有効」——この主張が2020年代のトレーニング界を席巻している。インクラインダンベルカール、プリチャーカール、ストレートアームプルダウンなど「ロングレングス」で筋肉を使う種目が推奨されるようになった。これは本当にエビデンスで支持されるのか。

Round1

筋肉が伸張した状態(ロングレングス)でのトレーニングは筋肥大が大きいか

言われていること

RP Strength・Mike Israetel系コンテンツ、上腕二頭筋特化ルーティン

筋肉を伸ばした状態で高い張力がかかる種目(ストレッチ種目)は筋肥大を最大化する。インクラインダンベルカールやプリチャーカールはバーベルカールより筋肥大効果が高い。

VS

研究が示すこと

  • 収録している Kassiano ら(2023)は、フル可動域(fROM)とパーシャル可動域(pROM)が筋肥大に与える効果を比べた、11件の研究を採択した1件の系統的レビューである。
  • fROM と、可動域の初期部分(筋が長い側)で行う pROM は、可動域の終盤で行う pROM より、大腿直筋・外側広筋・上腕二頭筋・上腕筋の遠位部で大きな筋肥大をもたらした(群間の効果量0.20〜0.90)。 大殿筋と内転筋群では、fROM が終盤の pROM より大きかった(0.24〜0.25)。 一方、大腿直筋の近位部では初期の pROM が fROM より有利で(0.35〜0.38)、上腕三頭筋では可動域の中間部の pROM が fROM より大きかった(1.21)。 著者らは、筋が長い状態で(pROM でも fROM でも)トレーニングすると、大腿四頭筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋などで最適な成長が得られる傾向があると結論し、可動域の初期部分での pROM を fROM と組み合わせることを検討すべきだとしている。
判定

収録したレビューが結論としているのは、筋が長い状態で——部分可動域でも全可動域でも——トレーニングすると大腿四頭筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋などで最適な成長が得られる傾向がある、ということである。可動域の初期部分(筋が長い側)で行う部分可動域が全可動域を上回った部位があるのは、この結論と矛盾しない。「全可動域か部分可動域か」と「筋が長いか短いか」は別の軸である。 根拠は、採択研究11件の系統的レビュー1件だけである。

信頼度:中程度の根拠
Round2

フルレンジオブモーション(最大可動域)はパーシャルより筋肥大が大きいか

言われていること

フォーム重視のトレーニング教育コンテンツ全般

フルレンジで動かすことが筋肥大の基本。パーシャルレンジで大重量を動かすのはエゴリフト。可動域を全部使ってこそ筋肉に最大の刺激が入る。

VS

研究が示すこと

  • 収録している Bloomquist ら(2013)は、男子学生17名を12週間の漸進的なスクワットトレーニングに無作為に割りつけたRCTである(反復回数を揃えた最大反復セット)。
  • 深いスクワット(膝屈曲0〜120度、8名)と浅いスクワット(0〜60度、9名)を比べ、深い群では大腿前面の筋断面積が4〜7%増加し、その増加は浅い群より有意に大きかった(P<0.05)。また、膝屈曲75度(6±2%)と105度(8±1%)での等尺性膝伸展筋力、スクワットジャンプ(15±3%)でも浅い群より優れた適応を示した。 膝蓋腱の断面積には差が見られなかった。 1RMは、深い群が浅いスクワットと深いスクワットの双方で約20±3%増加した一方、浅い群は浅いスクワットで36±4%、深いスクワットで9±2%だった(P<0.05)。
判定

収録したRCTでは、深いスクワットが浅いスクワットより大腿前面の筋断面積・等尺性膝伸展筋力・スクワットジャンプで優れた適応を示した(男子学生17名・12週間)。1RMは、深い群が浅い・深いスクワットの双方で約20±3%、浅い群は浅いスクワットで36±4%・深いスクワットで9±2%増加している。 同RCTは負荷のかかる筋長を測っておらず、種目・目標筋・関節の状態ごとに可動域を比べた研究も本記事は収録していない。

信頼度:中程度の根拠
Round3

トレーニング前後の静的ストレッチは筋肥大に影響するか

言われていること

一般的な筋トレガイドライン・体育系教育

ウォームアップの静的ストレッチは筋肉をほぐし、より深い可動域で鍛えられるようになるから筋肥大に有効。トレーニング後のストレッチはクールダウンと疲労回復に役立つ。

VS

研究が示すこと

  • 収録している Kallerud & Gleeson(2013)は、伸張―短縮サイクル(SSC)を含むパフォーマンスに対するストレッチの急性・慢性の効果を検討した系統的レビューで、2006年1月から2012年12月までのRCTまたは反復測定デザインの43件を対象としている。
  • 静的ストレッチの急性効果を評価した研究のおよそ半数がパフォーマンスの低下を報告し、残りは影響なしだった。動的ストレッチは負の効果を示さず、半数の試験でパフォーマンスが向上した。 効果量は概して小〜中程度で、著者らは実際の場面での影響は限定的かもしれないと述べている。 著者らは、柔軟性を高めるために推奨される量の静的ストレッチは、素早い動作を含むパフォーマンスに負の急性効果をもたらしうると結論している。
判定

収録したレビューでは、静的ストレッチの急性効果は低下を報告する研究とそうでない研究がおよそ半々で、効果量は小〜中程度だった。動的ストレッチは負の効果を示していない。同抄録は推奨を述べておらず、柔軟性の向上が筋肥大に貢献するかを検証した研究も本記事は収録していない。

信頼度:賛否が分かれる
訂正履歴訂正1回・撤回した原文14件

公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。

  • 出典を照合した結果、以前この記事が公開していた次の記述を撤回した。 ①「Kassiano ら(2023)のメタ分析では、筋肉の伸張位で高負荷がかかるエクササイズはそうでない種目と比べて筋肥大が有意に大きい傾向が示された(効果量は小〜中程度)。」——同論文はメタ分析ではなく系統的レビュー(採択11件)であり、報告されている効果量は0.20〜1.21と幅がある。②「ただしこれを支持するRCTの多くは短期間(8〜12週)で、特定の筋肉(大腿四頭筋・腓腹筋など)に限られている。」——抄録は試験期間を報告しておらず、扱われている筋も腓腹筋ではなく大腿直筋・外側広筋・上腕二頭筋・上腕筋・大殿筋・内転筋群・上腕三頭筋である。③「「すべての筋肉・すべての種目」に一般化できるほどエビデンスは確立されていない。」④「ロングレングス(ストレッチ種目)が筋肥大に有利という方向性のエビデンスは出ているが、効果量はまだ小〜中程度。」⑤「全筋肉に一般化できるとは言い切れない段階にある。」——効果量の要約が誤っており、一般化の可否を論じた記述も抄録には無い。 ⑥「ただしこれは「より深い=より伸張位で負荷がかかる」ことが理由の一つと解釈される。」⑦「フルレンジが有利なケースが多いが、「深い=ストレッチ位で負荷がかかる」という条件付きの優位性。」——Bloomquist ら(2013)は負荷のかかる筋長を測っていない。⑧「一方、すべての種目でフルROMが最適かは不明で、種目・目標筋・関節の状態によって最適な可動域は変わりうる。」⑨「関節の状態や種目によって最適な可動域は変わる。」——種目・目標筋・関節の状態ごとに可動域を比べた研究を収録していない。 ⑩「トレーニング直前の静的ストレッチは一時的に筋力・筋発揮パワーを低下させることがメタ分析で示されている(Kallerud & Gleeson 2013)。」——同論文は系統的レビューであり、結果は低下を報告する研究とそうでない研究がおよそ半々と割れている。⑪「ウォームアップとして行う場合は静的ストレッチより動的ストレッチ(ダイナミックウォームアップ)が推奨される。」⑫「トレーニング前の静的ストレッチはパフォーマンスを下げる可能性があるため推奨されない。」——同抄録は推奨を述べていない。⑬「一方、長期的な柔軟性向上(可動域拡大)により深いレンジでのトレーニングが可能になれば筋肥大に間接的に貢献しうるが、ストレッチ単体が筋肥大を直接促進するエビデンスは現時点では限定的。」⑭「長期的な可動域向上が筋肥大に間接的に貢献する可能性はあるが、直接効果のエビデンスは不十分。」——柔軟性の向上が筋肥大に貢献するかを検証した研究を収録していない。
    撤回した原文14件

    公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。

    1. Kassiano ら(2023)のメタ分析では、筋肉の伸張位で高負荷がかかるエクササイズはそうでない種目と比べて筋肥大が有意に大きい傾向が示された(効果量は小〜中程度)。
    2. ただしこれを支持するRCTの多くは短期間(8〜12週)で、特定の筋肉(大腿四頭筋・腓腹筋など)に限られている。
    3. 「すべての筋肉・すべての種目」に一般化できるほどエビデンスは確立されていない。
    4. ロングレングス(ストレッチ種目)が筋肥大に有利という方向性のエビデンスは出ているが、効果量はまだ小〜中程度。
    5. 全筋肉に一般化できるとは言い切れない段階にある。
    6. ただしこれは「より深い=より伸張位で負荷がかかる」ことが理由の一つと解釈される。
    7. フルレンジが有利なケースが多いが、「深い=ストレッチ位で負荷がかかる」という条件付きの優位性。
    8. 一方、すべての種目でフルROMが最適かは不明で、種目・目標筋・関節の状態によって最適な可動域は変わりうる。
    9. 関節の状態や種目によって最適な可動域は変わる。
    10. トレーニング直前の静的ストレッチは一時的に筋力・筋発揮パワーを低下させることがメタ分析で示されている(Kallerud & Gleeson 2013)。
    11. ウォームアップとして行う場合は静的ストレッチより動的ストレッチ(ダイナミックウォームアップ)が推奨される。
    12. トレーニング前の静的ストレッチはパフォーマンスを下げる可能性があるため推奨されない。
    13. 一方、長期的な柔軟性向上(可動域拡大)により深いレンジでのトレーニングが可能になれば筋肥大に間接的に貢献しうるが、ストレッチ単体が筋肥大を直接促進するエビデンスは現時点では限定的。
    14. 長期的な可動域向上が筋肥大に間接的に貢献する可能性はあるが、直接効果のエビデンスは不十分。

公開日: 更新日:

吉崎 槙吾

執筆

吉崎 槙吾

エンジニア / BODYDATAリサーチ担当

エンジニアの仕事は裏付けを取ること。筋トレの通説も、ソースコードと同じで中身を読んでから信じます。

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染田 智信

監修: 染田 智信

トレーニング指導とサプリメント業界での実務経験の観点から内容を確認しています

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