
柔らかい靴だと力が逃げてスクワットに不利なのか
言われていること
ジムでの通説、リフター文化
クッションの効いた靴は沈み込むから、床への力が逃げてスクワットやデッドで損をする。硬いフラットソールの方が確実に力が伝わる。
研究が示すこと
- “力が逃げる”を直接測って不利を示したデータは、ほとんど無い。
- むしろ Sinclair ら(2015)の小規模研究では、クッションのある走用シューズの方が裸足よりスクワットが深く、膝屈曲や大腿直筋の活動が増えた(被験者は裸足を好んだが、その選好を裏づけるバイオメカ的根拠は見つからなかった)。
- 理屈としては、柔らかく沈む接地面を“小さな不安定面”とみなせば、Anderson & Behm(2004)が示した不安定条件での最大力低下(約-60%)が連想される。
- ただしこれはチェストプレスの研究で、靴やスクワットの直接データではない。
「柔らかい靴=スクワットに不利」を裏づける直接的な証拠は乏しく、むしろ逆の結果もある。極端に沈むランニングシューズが高重量では不安定に感じられるのは理にかなうが、“力が逃げて損をする”は現時点で研究が支えていない。
靴の種類でスクワットの動作や関節への負荷は変わるのか
言われていること
リフティングシューズ推奨の通説
リフティングシューズ(かかとが高く硬い靴)はスクワットの姿勢を良くして膝や腰を守る。だから普通のスニーカーはダメだ。
研究が示すこと
- 靴で“動作”が変わるのは複数の急性バイオメカ研究で一貫して見られる。
- Sato ら(2012)ではリフティングシューズで体幹前傾が約22mm減り、Southwell ら(2016)では靴の種類で関節の負荷が“良い/悪い”ではなく再分配された(裸足は股関節、シューズは膝への負荷が相対的に大きい)。
- つまりリフティングシューズは姿勢をより直立に保ち負荷を膝側へ寄せる傾向がある。
- ただし、これが長期の傷害率や筋肥大の差につながるかを比較した研究は見当たらない。
リフティングシューズが姿勢や負荷の“かかり方”を変えるのは事実。特に足首の硬さでしゃがみにくい人には利点がありうる。ただし「普通の靴はダメ/必ず守ってくれる」と言えるほどの長期データは無い。多くの人にとっては好みと快適さの範囲の選択と考えてよい。
結局どんな靴を選べばいいのか
言われていること
SNS・フィットネス系の断定的アドバイス
筋トレするなら絶対に専用のリフティングシューズか裸足。ランニングシューズでやっているうちは初心者。
研究が示すこと
- 研究はここまで断定していない。
- 確認できたのは、靴によってスクワットの姿勢・関節負荷の“配分”が急性的に変わることまでで、いずれも小規模(n=9〜32)・短期・大半が男性のバイオメカ研究にとどまる。
- 安定した硬い靴(またはかかと挙上)は高重量スクワットで理にかなう選択だが、「フカフカの靴だと成果が落ちる/怪我をする」を示す長期比較は存在しない。
- デッドリフト特化のシューズ研究も見当たらなかった。
高重量のスクワット・デッドを安定して扱いたいなら、硬めで沈みにくい靴(フラットソールやリフティングシューズ)が合理的。とはいえ「ランニングシューズは絶対ダメ」と言える根拠は無い。軽めのトレーニングや快適さ重視なら、手持ちの靴で続けること自体に問題はない。
関連する研究
出典
- Sato K, Fortenbaugh D, Hydock DS (2012) J Strength Cond Res — Kinematic changes using weightlifting shoes on barbell back squat
- Southwell DJ, Petersen SA, Beach TAC, Graham RB (2016) J Electromyogr Kinesiol — The effects of squatting footwear on three-dimensional lower limb and spine kinetics
- Sinclair J, McCarthy D, Bentley I, Hurst HT, Atkins S (2015) Eur J Sport Sci — The influence of different footwear on 3-D kinematics and muscle activation during the barbell back squat
- Anderson KG, Behm DG (2004) J Strength Cond Res — Maintenance of EMG activity and loss of force output with instability
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