
クッションの効いた靴は筋トレに向かない? 通説 vs 研究
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「スクワットやデッドリフトをランニングシューズのようなフカフカの靴でやると力が逃げる」「筋トレはフラットソールか裸足が正解」——これはジムでよく言われる。実際のところ、靴のクッション性は筋トレの成果や安全性にどれくらい影響するのか。収録した4件のバイオメカニクス研究が何を測って何を報告しているかを見ていく。 収録した4件はいずれも急性のバイオメカ研究である。Sato ら(2012)はリフティングシューズと走用シューズを直接比較し、著者らは前傾しやすい人・膝伸筋の活動を高めたい人にリフティングシューズを推奨している。一方、長期の成果・傷害予防・靴の硬さそのものを比べた研究は収録していない。
データで、白黒つけよう。
柔らかい靴だと力が逃げてスクワットに不利なのか
言われていること
ジムでの通説、リフター文化
クッションの効いた靴は沈み込むから、床への力が逃げてスクワットやデッドで損をする。硬いフラットソールの方が確実に力が伝わる。
研究が示すこと
- 収録している Sinclair ら(2015)は、経験のある男性14名が1RMの70%でバックスクワットを行い、8台のカメラによる動作解析と筋電図を測った研究である。
- 同研究では、裸足と比べて走用シューズのほうがスクワットが深く、膝屈曲と大腿直筋の活動が大きかった。被験者はスクワットを裸足で行うことを好んだが、著者らはその選好を裏づけるバイオメカ的な根拠は見つからなかったと述べている。 収録している Anderson & Behm(2004)は、健常男性10名がベンチまたはバランスボール上でチェストプレスを行ったもので、不安定条件の等尺性最大力が安定条件より59.6%低かったこと、全体の筋電図活動には有意差が無かったことを報告している。靴も下肢も扱っていない。
収録している Sinclair ら(2015、経験のある男性14名、1RMの70%)では、走用シューズのほうが裸足よりスクワットが深く、膝屈曲と大腿直筋の活動が大きかった。被験者は裸足を好んだが、著者らはその選好を裏づけるバイオメカ的根拠は見つからなかったと述べている。
靴の種類でスクワットの動作や関節への負荷は変わるのか
言われていること
リフティングシューズ推奨の通説
リフティングシューズ(かかとが高く硬い靴)はスクワットの姿勢を良くして膝や腰を守る。だから普通のスニーカーはダメだ。
研究が示すこと
- 靴で“動作”が変わるのは複数の急性バイオメカ研究で一貫して見られる。
- Sato ら(2012)ではリフティングシューズで体幹前傾が約22mm減り、Southwell ら(2016)では靴の種類で関節の負荷が“良い/悪い”ではなく再分配された(裸足は股関節、シューズは膝への負荷が相対的に大きい)。
- Sato ら(2012)は大学生25名が1RMの60%でバックスクワットを行った研究で、リフティングシューズ着用時に足部の角度が3.5度大きく(p<0.05)、体幹前傾が22mm小さかった(p<0.05)。大腿部の最大屈曲角には有意差が無かった(p=0.37)。 Southwell ら(2016)は経験のあるウェイトリフター24名(男女各12名)が1RMの80%でバックスクワットを行った研究で、膝の伸展モーメントは走用シューズとリフティングシューズが裸足より有意に大きく(p=0.001)、膝の外旋モーメントはリフティングシューズが他の2条件より大きかった(p=0.002)。股関節の伸展モーメントは裸足が他の2条件より大きく(p=0.004)、股関節の内旋・外旋モーメントも裸足と靴あり条件で異なった(p=0.003/p=0.005)。 著者らは、靴を変えることで下肢の関節間で内的な力学的負荷の配分が変わり、筋骨格系の適応が変わるかもしれないと述べている。 Sato ら(2012)の著者らは、リフティングシューズが体幹前傾を減らすことは腰部のせん断応力を減らすと考えられるため有益に見えるとし、前傾しやすい人や膝伸筋の活動を高めたい人にはリフティングシューズの使用を推奨するとしている。一方、リフティングシューズは走用シューズと比べて大腿部を水平に近づける助けにはならなかったとも述べている。 この2件から言えるのは、リフティングシューズで体幹前傾が小さくなること(Sato 2012)と、履物条件で下肢の関節間に負荷が再配分されること(Southwell 2016)である。 ただし別々の小規模な急性研究による所見であり、同一の試験で姿勢と負荷配分の連関を検証したものではない。一般化はここまでにとどまる。 長期の傷害率や筋肥大を比べた研究は収録していない。
収録した2件は、靴の条件によってスクワットの運動学と関節モーメントが変わることを報告している(Sato 2012:体幹前傾が22mm小さい。Southwell 2016:膝と股関節でモーメントが再配分される)。足関節の可動域で層別した比較を、本記事は収録していない。 選好については、Sinclair ら(2015)が被験者14名に好みを尋ね、裸足への有意な選好を報告している(ただし著者らは、その選好を裏づけるバイオメカ的な根拠は見つからなかったとしている)。一般的な快適さや、好みで選んでよいかの妥当性までは検証されていない。
結局どんな靴を選べばいいのか
言われていること
SNS・フィットネス系の断定的アドバイス
筋トレするなら絶対に専用のリフティングシューズか裸足。ランニングシューズでやっているうちは初心者。
研究が示すこと
- 研究はここまで断定していない。
- 確認できたのは、靴によってスクワットの姿勢・関節負荷の“配分”が急性的に変わることまでで、いずれも小規模(n=10〜25)・短期のバイオメカ研究にとどまる。
- 靴の硬さで成果を比べた研究を、本記事は収録していない。 「フカフカの靴だと成果が落ちる/怪我をする」を示す長期比較も、デッドリフト特化のシューズ研究も収録していない。 なお Sato ら(2012)はリフティングシューズと走用シューズを直接比較しており、著者らは前傾しやすい人と膝伸筋の活動を高めたい人にリフティングシューズを推奨している。これは急性の運動学に基づく推奨であって、長期の成果や傷害予防を比べたものではない。
収録した4件が示すのは、靴の条件によってスクワットの運動学と関節モーメントが急性的に変わることまでである。 Sato ら(2012)の著者らは、前傾しやすい人と膝伸筋の活動を高めたい人にリフティングシューズを推奨しているが、これは急性の運動学に基づくもので、長期の成果や傷害を比べた研究は収録していない。
訂正履歴訂正1回・撤回した原文13件
公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。
- 収録している4件が測ったものはそれぞれ違う。Sato ら(2012、大学生25名・1RMの60%)は2次元の運動学、Southwell ら(2016、経験のあるウェイトリフター24名・1RMの80%)は3次元の関節モーメント、Sinclair ら(2015、経験のある男性14名・1RMの70%)は3次元の運動学と筋電図、Anderson & Behm(2004、健常男性10名)はチェストプレスでの等尺性最大力と筋電図である。いずれも1回のセッションで測った急性の研究で、靴の硬さで成果を比べた試験も、長期の傷害率を追った試験も、本記事は収録していない。 それにもかかわらず「どの靴を選ぶべきか」を判定し、チェストプレスの研究を靴の話に当てはめていた。該当する記述を本文から撤回して訂正履歴に移した。
[導入] ①「バイオメカニクス研究を見ていくが、先に言っておくと、この領域は“研究がとても薄い”。」 ── この領域の研究が薄いという評価。収録4件が急性のバイオメカ研究であることは書けるが、分野全体の量を評価できるだけの検索を行っていない。
[第1ラウンド:力が逃げるか] ②「“力が逃げる”を直接測って不利を示したデータは、ほとんど無い。」(研究側)── 直接測ったデータがほとんど無いという評価。同じ理由で言えない。③「理屈としては、柔らかく沈む接地面を“小さな不安定面”とみなせば、Anderson & Behm(2004)が示した不安定条件での最大力低下(約-60%)が連想される。」(研究側)── 柔らかい接地面を「小さな不安定面」とみなす類推。Anderson & Behm(2004)は健常男性10名がベンチまたはバランスボール上でチェストプレスを行った研究で、靴も下肢も扱っていない。(なお「約-60%」は抄録の59.6%を丸めたもので、現在の本文は59.6%と書いている。)④「「柔らかい靴=スクワットに不利」を裏づける直接的な証拠は乏しく、むしろ逆の結果もある。」(判定)── 命題は2つある。(a) 不利を裏づける直接的な証拠が乏しいこと、(b) むしろ逆の結果もあること。(a) はそう言えるだけの検索を行っていない。⑤「極端に沈むランニングシューズが高重量では不安定に感じられるのは理にかなうが、“力が逃げて損をする”は現時点で研究が支えていない。」(判定)── 命題は2つある。(a) 高重量で不安定に感じられるのは理にかなうという推論、(b) 「力が逃げて損をする」を研究が支えていないという評価。主観的な不安定さを測った研究を収録していない。
[第2ラウンド:靴と動作・関節負荷] ⑥「つまりリフティングシューズは姿勢をより直立に保ち負荷を膝側へ寄せる傾向がある。」(研究側)── Sato(2012)の体幹前傾と Southwell(2016)のモーメント再配分を1つの傾向にまとめた要約。2件は被験者(大学生25名/経験者24名)も負荷(1RMの60%/80%)も評価項目(運動学/関節モーメント)も違う。⑦「特に足首の硬さでしゃがみにくい人には利点がありうる。」(判定)── 足関節の可動域で層別した比較を収録していない。⑧「多くの人にとっては好みと快適さの範囲の選択と考えてよい。」(判定)── 好みと快適さの範囲の選択だという評価。⑨「足関節の可動域で層別した比較も、好みや快適さを扱った研究も、本記事は収録していない。」(判定)── 上の2件を撤回したときに書いた理由だが、「好みを扱った研究も収録していない」の部分が誤りだった。Sinclair ら(2015)は被験者14名に好みを尋ね、裸足への有意な選好を報告している。現在の本文はその所見を載せている。
[第3ラウンド:どの靴を選ぶか] ⑩「いずれも小規模(n=9〜32)・短期・大半が男性のバイオメカ研究にとどまる。」(研究側)── 標本サイズの範囲が誤っていた。収録4件は10名・14名・24名・25名で、正しくは n=10〜25 である。「大半が男性」も断定できない。Sinclair ら(2015)の14名と Anderson & Behm(2004)の10名は男性、Southwell ら(2016)は男女各12名だが、Sato ら(2012)の抄録は "College-aged individuals (N = 25)" とだけ記していて性別を述べていない。⑪「安定した硬い靴(またはかかと挙上)は高重量スクワットで理にかなう選択だが」(研究側)── 硬い靴やかかと挙上が高重量スクワットで理にかなうという評価。靴の硬さで成果を比べた研究を収録していない。⑫「高重量のスクワット・デッドを安定して扱いたいなら、硬めで沈みにくい靴(フラットソールやリフティングシューズ)が合理的。」(判定)── 硬めで沈みにくい靴が合理的だという推奨。⑬「軽めのトレーニングや快適さ重視なら、手持ちの靴で続けること自体に問題はない。」(判定)── 軽めのトレーニングなら手持ちの靴で問題ないという判定。どちらも、靴の条件で成果を比べた研究が無い以上は言えない。
このラウンドは収録した出典から選択の当否を示せないため、確信度をこの一連の訂正のなかで insufficient に下げてある。
撤回した原文13件
公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。
バイオメカニクス研究を見ていくが、先に言っておくと、この領域は“研究がとても薄い”。
“力が逃げる”を直接測って不利を示したデータは、ほとんど無い。
理屈としては、柔らかく沈む接地面を“小さな不安定面”とみなせば、Anderson & Behm(2004)が示した不安定条件での最大力低下(約-60%)が連想される。
「柔らかい靴=スクワットに不利」を裏づける直接的な証拠は乏しく、むしろ逆の結果もある。
極端に沈むランニングシューズが高重量では不安定に感じられるのは理にかなうが、“力が逃げて損をする”は現時点で研究が支えていない。
つまりリフティングシューズは姿勢をより直立に保ち負荷を膝側へ寄せる傾向がある。
特に足首の硬さでしゃがみにくい人には利点がありうる。
多くの人にとっては好みと快適さの範囲の選択と考えてよい。
足関節の可動域で層別した比較も、好みや快適さを扱った研究も、本記事は収録していない。
いずれも小規模(n=9〜32)・短期・大半が男性のバイオメカ研究にとどまる。
安定した硬い靴(またはかかと挙上)は高重量スクワットで理にかなう選択だが
高重量のスクワット・デッドを安定して扱いたいなら、硬めで沈みにくい靴(フラットソールやリフティングシューズ)が合理的。
軽めのトレーニングや快適さ重視なら、手持ちの靴で続けること自体に問題はない。
関連する研究
出典
- Sato K, Fortenbaugh D, Hydock DS (2012) J Strength Cond Res — Kinematic changes using weightlifting shoes on barbell back squat
- Southwell DJ, Petersen SA, Beach TAC, Graham RB (2016) J Electromyogr Kinesiol — The effects of squatting footwear on three-dimensional lower limb and spine kinetics
- Sinclair J, McCarthy D, Bentley I, Hurst HT, Atkins S (2015) Eur J Sport Sci — The influence of different footwear on 3-D kinematics and muscle activation during the barbell back squat
- Anderson KG, Behm DG (2004) J Strength Cond Res — Maintenance of EMG activity and loss of force output with instability
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