
ローディングはしないと効果が遅くなる
言われていること
クレアチンサプリメーカーの推奨プロトコル、フィットネス系コンテンツ
最初の1週間に20g/日を飲まないと筋肉内クレアチンが満タンになるのに4〜5週かかる。ローディングすれば1週間で効果が出始める。
研究が示すこと
- ISSN(国際スポーツ栄養学会)の公式見解が示す標準的なローディングプロトコルは、クレアチンモノハイドレート5g(体重1kgあたり約0.3gに相当)を1日4回、5〜7日間摂取し、その後3〜5g/日の維持量に切り替える方法(体重70kgならローディング期は約20g/日)。
- この根拠となった代表的な研究がHultmanら(1996)の検討で、健康な男性31名を対象に、20g/日を6日間摂取する急速ローディングと、ローディングをせず3g/日を28日間継続するプロトコルにおける筋内クレアチン濃度の変化を筋生検で調べた(ランダム化・プラセボ対照についての記述はない機序研究)。
- いずれのプロトコルでも筋内総クレアチン濃度が約20%増加し、最終的な到達濃度に差はなかった。
- つまりローディングは「より高い濃度に到達する」手段ではなく、「同じ到達点に数日早く着く」ための手段にすぎない。
- 「早く効果を出したい競技シーズン直前」などではローディングの合理性はあるが、「急ぐ必要がない」場合は維持量からスタートしても3〜4週間後には同じ筋内クレアチン濃度、ひいては同等の筋力・筋肥大効果が期待できる。
- なお ISSN のポジションスタンド自体は、1日3gを28日間という代替法について「より緩やかな増加にとどまり、そのぶん運動成績やトレーニング適応への効果が小さい可能性がある」と留保を付けている。
- 到達する筋内クレアチン濃度が同じでも、その途中の期間に差が出るかどうかは、この文書は決着させていない。
ローディング(5g(体重1kgあたり約0.3gに相当)を1日4回・5〜7日間)は「早く効かせたい場合」に有効な手段だが、「しなければ損をする」わけではない。3〜5g/日の維持量を続ければ3〜4週間後には同じ筋内クレアチン濃度に到達する。ただし ISSN は、緩やかな増やし方はそのぶん効果が小さい可能性があると留保しており、到達するまでの数週間に差が出るかは決着していない。急ぎでなければ維持量スタートで十分だろう。
ローディング中の胃腸不快感・体重増加は問題ない
言われていること
ローディングを推奨する一般的なフィットネス情報
ローディング中に少し胃もたれするかもしれないが、体重増加(水分貯留)も一時的なものだし、慣れれば問題ない。
研究が示すこと
- ISSNの公式見解は、ローディング初期に約0.5〜1.0Lの一時的な体液貯留が生じ、これが急性の体重増加とおおむね比例することを報告している(具体的なkg数までは明記されていない)。
- 胃腸症状については、サッカー選手59名を対象にしたOstojicらの試験が、クレアチン10g/日を1回で摂取した群で下痢の発生率が55.6%だったのに対し、同じ総量を2×5gに分割した群では28.6%にとどまったと報告している。
- ただしこの試験ではプラセボ群でも下痢の発生率が35.0%と高く、単一の小規模試験である点は割り引いて読む必要がある。
- それを踏まえても、この試験内では単回摂取の方が分割摂取より下痢の発生率が高かった。
- なお、この試験が比べたのは1日10gを単回で摂るか2回に分けるかであって、維持量(3〜5g/日)での症状の起きやすさは検証していない。
- 体重増加は「水分が貯留される」ことを意味し、クレアチンの作用機序(筋内クレアチンリン酸と結合した水が増える)から生じる現象で、避けることは難しい。
- 競技で体重カテゴリーが存在する場合(ウェイトリフティング・格闘技など)は計量前のローディングは避けるべき。
ローディング中は一時的な体液貯留(ISSNの報告ではおよそ0.5〜1.0L)による体重増加が生じ、体重管理が重要な競技では避けるべき。胃腸症状は、単一のRCTの範囲では「ローディングをするか」より「1回に何gまとめて飲むか」と関連しており(ただしそのRCTのプラセボ群でも下痢35.0%と高く、単一の小規模試験である点は割り引く必要がある)、ローディングする場合も1日3〜4回に分割するのが無難。「胃が弱い・体重増加を最小化したい」場合は維持量スタートも選択肢になる。
クレアチンHCL(クレアチン塩酸塩)はローディング不要で吸収が良い
言われていること
クレアチンHCL製品のマーケティング、比較コンテンツ
クレアチンHCLはモノハイドレートより吸収が良くて少量でOK。ローディングが不要で胃腸への負担も少ない。
研究が示すこと
- クレアチンHClがモノハイドレートより優れるという結論は出ていない。
- Jäger ら(2011)のレビューは、新しい形態がモノハイドレートより有効あるいは安全だという証拠はほとんど無いとしている。
- HClの溶解度が高いこと自体は製品情報として知られているが、このレビューの抄録はHClの溶解性にも消化器症状にも個別に触れていない。
- 研究の蓄積量ではモノハイドレートが圧倒的に多く、筋内クレアチン濃度を約15〜40%高めること、経口摂取分のほぼ99%が筋に取り込まれるか排泄されることが示されている。
クレアチンHCLが「ローディング不要・吸収が優れる」という主張の強いRCTエビデンスはない。胃腸症状が気になる場合の選択肢にはなりうるが、コスト・エビデンスの面ではモノハイドレートが現時点での標準的選択。
『ビフォーアフター』で見える数日での体重増加は筋肉がついた証拠だ
言われていること
SNSのビフォーアフター投稿、一部のクレアチン系マーケティング
クレアチンを飲み始めて数日で体重が増えたり見た目がパンプしたりするのは、クレアチンで筋肉が急激についた証拠。SNSのビフォーアフターほど分かりやすい効果はない。
研究が示すこと
- Hultmanらの研究やISSNの公式見解が報告する摂取初期(数日〜1週間)の体重増加は、体液貯留によるもの。
- ISSN見解では、ローディング初期に約0.5〜1.0Lの体液貯留が生じ、これが急性の体重増加とおおむね比例するとされる(具体的な体重増加量はISSNの見解には明記されていない)。
- これは数日で起こる変化であり、筋タンパク質が実際に合成・蓄積されて筋線維が太くなる「筋肥大」とは別の現象。
- 一方、クレアチンとレジスタンストレーニングのメタ分析が示すような、クレアチン併用のレジスタンストレーニングで除脂肪量が有意に増えるという結果は、数週間〜数か月のトレーニングを継続した上でのもの。
- 「数日のビフォーアフター」と「実質的な筋肥大」は、そもそも起きている現象も時間スケールも異なる。
数日で見えるビフォーアフターの体重・見た目の変化は、主に体液貯留によるもの(ISSNの報告ではおよそ0.5〜1.0Lの体液貯留が急性の体重増加に比例するとされる)で、それ自体は筋肥大の証拠ではない。クレアチンがトレーニングの適応を高めること自体は研究で支持されているが、それが実際の筋肉として反映されるには数週間以上のトレーニング継続が必要。
関連するサプリ
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クレアチンHCl新しい形態がモノハイドレートより優れているという証拠は、ほとんど無い。 クレアチンモノハイドレート(CM)と市場の新しい形態を比較したレビューは、「新しい形態については、単独でも他の栄養素と組み合わせても、CMより有効あるいは安全だという証拠はほとんど無い」と結論している。さらに「CMの安全性・有効性・規制上の位置づけがほぼすべての市場で明確なのに対し、他の形態については不明瞭」だとしている(Jäger 2011)。
購入対象は塩酸塩ですが、収録した出典が塩酸塩そのものを評価したものではありません。 新しい形態のクレアチンを扱ったレビューは「新しい形態については、単独でも他の栄養素と組み合わせても、モノハイドレートより有効あるいは安全だという証拠はほとんど無い」と結論しています(Jäger 2011)——これは塩酸塩を含むクラス全体についての結論で、塩酸塩固有のデータではありません。吸収がほぼ99%という所見と、筋内濃度を15〜40%高めるという所見はモノハイドレートについてのものです。塩酸塩とモノハイドレートを直接比較した試験は収録していません。
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関連する研究
出典
- Hultman E et al. (1996) J Appl Physiol — クレアチン摂取プロトコル比較(機序研究)
- Greenhaff PL et al. (1993) Clin Sci — クレアチン貯蔵量と運動パフォーマンス
- Kreider RB et al. (2017) J Int Soc Sports Nutr — ISSN見解: クレアチン摂取の安全性と有効性
- Ostojic SM, Ahmetovic Z (2008) Res Sports Med — クレアチンの用量と胃腸症状
- Jager R, et al. (2011) Amino Acids — 新しい形態のクレアチンの有効性・安全性・規制状況の分析
公開日: / 更新日:


次に読む
- 研究 vs 勘
クレアチンモノハイドレートとクレアルカリンについて、収録した出典が言える範囲
「クレアルカリンはpH調整でモノハイドレートより吸収率が高く、少量で同等の効果が得られる」という主張は根強い。価格差を示せる出典も、形態間の優劣を比べた研究も、本記事は収録していない。
吉崎 槙吾
- 解説
サプリはいつ飲むか ─ 収録した研究が示している投与条件
成分ごとに、収録した出典が実際に示している範囲だけを書く。 カフェイン。 Grgic ら(2020)は21件のメタ分析を対象としたアンブレラレビューで、有酸素持久力・筋力・筋持久力・パワー・跳躍・移動速度でエルゴジェニックだったとしている。ただし95%予測区間を考慮するとすべての解析が効果の向きを確定的に示したわけではなく、証拠の質は概して中程度、個々の研究の多くは若い男性が対象である。摂取のタイミングを比較したものではない。 クレアチン。 運動の直前と直後を比べたRCT(男性19名・4週間、Antonio & Ciccone 2013)では、除脂肪量とベンチプレス1RMは増えたが、群と時間の交互作用はいずれの指標でも有意ではなかった。 著者らの「運動直後のほうが優れている」という結論は magnitude-based inference によるもので、有意差ではない。 プロテイン。 12時間で80gを分けた3通りのうち、20gを3時間ごとに4回が最も高かった(Areta 2013)。1日の総量も食事の回数も比べていない。
吉崎 槙吾
- 研究 vs 勘
「HMBはクレアチンを超える筋肥大サプリ」は本当か? HMB 通説 vs 研究
HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)はロイシンの代謝産物として、筋タンパク合成の促進と筋分解の抑制が期待されている。しかし「経験者への確実な効果」という宣伝文句は、研究ではどのように支持されているか。
吉崎 槙吾