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研究 vs 勘

「脚トレをやらないと全身デカくならない」は本当か? 通説 vs 研究

公開日: 更新日:

執筆: 吉村 浩嗣監修: 染田 智信

「脚トレを飛ばすと上半身も大きくならない」「スクワットやデッドで出る成長ホルモンやテストステロンが全身を育てる」「脚は身体の土台だからフレームが作られない」——“脚トレ信仰”はジムで根強い。だが、脚を鍛えることが本当に上半身の成長のカギなのか。ホルモンと筋量の研究から、この信仰のどこが正しくてどこが誤りかを切り分ける。

Round1

スクワットで出るホルモンが上半身も大きくするのか

言われていること

ジムでの通説、フィットネス系YouTube

スクワットやデッドリフトのような大きな種目は成長ホルモンやテストステロンを大量に分泌させる。そのホルモンが全身に回って腕や胸まで大きくする。だから脚トレをやらないと上半身も伸びない。

VS

研究が示すこと

  • 収録している West ら(2010)は、健康な若年男性12名が15週間、同じ肘屈筋を別々の日に異なるホルモン環境で鍛えた試験である。高ホルモン条件(アーム種目の直後に大量の脚レジスタンス運動)では成長ホルモン・IGF-1・テストステロンが直後・15分後・30分後に有意に上昇し(P<0.001)、低ホルモン条件では上昇が無かった。筋断面積は低ホルモン条件で12%、高ホルモン条件で10%増加し(P<0.001)、条件間に差は無かった(交互作用 P=0.25)。筋力も両腕で増加し条件間で差が無かった。 収録している Morton ら(2016)は、レジスタンストレーニング経験のある男性49名が12週間の全身プログラムを行った試験で、運動後の同化ホルモンの急性上昇と、筋力・筋肥大の変化のあいだに有意な相関は見つからなかった。 収録している West & Phillips(2012)は若年男性56名のコホート解析で、成長ホルモン・遊離テストステロン・IGF-1の曲線下面積と除脂肪量・レッグプレス筋力の増加のあいだに有意な相関が無かった。一方、コルチゾールの曲線下面積は除脂肪量の変化(r=0.29、P<0.05)とII型線維断面積(r=0.35、P<0.01)と、成長ホルモンの曲線下面積は線維面積の増加(I型 r=0.36、P=0.006/II型 r=0.28、P=0.04)と相関している。筋力との相関はいずれも無かった。 収録している Rønnestad ら(2011)は逆の結果である。9名が11週間、週4回の片側性の肘屈筋トレーニングを行い、うち週2回は片方の腕の直前に脚運動を入れた。脚運動を入れた側では血清テストステロンと成長ホルモンが有意に上昇した。両条件とも1RM・パワー・肘屈筋の筋体積が増加したが、腕屈筋の断面積が最大の部位で増加したのは脚運動を入れた側だけであり(p<0.001)、1RMの相対的な改善もそちらが優れていた(p<0.05)。 著者らは、腕運動の前に脚運動を行い血清テストステロンと成長ホルモンを高めることで、優れた筋力トレーニング適応が得られたと結論している。
判定

収録した4件のうち3件(West 2010・Morton 2016・West & Phillips 2012)は関連を示さず、1件(Rønnestad 2011、9名)は脚運動を先に行った側の腕で断面積と1RMの相対的改善が優れたと報告している。設計は似ているのに結論が逆であり、収録した抄録からは決着しない。 研究の質を順位づけられる資料も、本記事は収録していない。

信頼度:研究待ち
Round2

脚は身体の土台だから、鍛えないとフレームが作られないのか

言われていること

ジムでの通説、ボディメイク指導

脚は全身を支える土台。ここを鍛えないと身体のフレームが作られず、上半身だけ発達してもバランスの悪い不安定な身体になる。

VS

研究が示すこと

  • Janssen ら(2000)の全身MRI(468名)では、総骨格筋量は男性で体重の約38.4%(33.0kg)、女性で30.6%(21.0kg)だった。
  • 抄録は、絶対的な筋量が減りはじめるのは第5十年期の終わり(50歳ごろ)で、その減少は主に下肢によるとしている。 「下肢が最大の筋群である」とは述べていない。下肢が最大の筋群であることを示す資料も、脚を鍛えなかった場合を比べた研究も、見た目や日常動作を扱った研究も、本記事は収録していない。
判定

収録している Janssen ら(2000)が示すのは、男性の総骨格筋量が体重の約38.4%(33.0kg)、女性で30.6%(21.0kg)であること、性差は上半身(40%)のほうが下半身(33%)より大きいこと、そして絶対的な筋量が減りはじめるのは第5十年期の終わり(50歳ごろ)で、その減少が主に下肢によることである。

信頼度:賛否が分かれる
Round3

上半身だけを鍛えて脚を飛ばすのは“アリ”なのか

言われていること

上半身重視のトレーニー、SNS

腕や胸を大きくしたいだけなら脚トレは要らない。上半身を集中的にやった方が、その分だけ腕や胸が伸びる。

VS

研究が示すこと

  • 収録している West ら(2010)が測ったのは肘屈筋(アームカール)であって、胸や上半身全般ではない。同RCTでは、脚トレを併用した高ホルモン条件と併用しない低ホルモン条件で、筋断面積の増加(12%対10%)にも筋力にも差が無かった。 一方、収録している Rønnestad ら(2011、9名)は逆の結果を報告している。脚運動を先に行った側の腕では、断面積が最大の部位で有意な増加が見られ(p<0.001)、行わなかった側では変化が無く、1RMの相対的な改善も脚運動を併用した側のほうが優れていた(p<0.05)。著者らは、脚運動を腕運動の前に行うことで血清テストステロンと成長ホルモンが上がり、優れた筋力トレーニング適応が得られたと結論している。 設計は似ているのに結論が逆であり、Rønnestad の被験者は9名と極小である。「脚を飛ばしても上半身の発達は妨げられない」と断定できる状態ではない。 収録している Janssen ら(2000)が述べているのは、絶対的な筋量が減りはじめるのが第5十年期の終わり(50歳ごろ)で、その減少が主に下肢によるということまでである。下肢が最大の筋群であるとも、鍛えなければ全身のバランスを失うとも述べていない。
判定

収録した2件は結論が逆である(West 2010:肘屈筋の断面積・筋力に差なし。Rønnestad 2011:脚運動を先に行った側の腕で断面積と1RMが優れた)。決着していない。 下肢が最大の筋群であることを示す資料も、脚を外した場合を比べた研究も、本記事は収録していない。

信頼度:研究待ち
訂正履歴訂正1回・撤回した原文23件

公開後に撤回・訂正した内容です。本文は現在の知見だけを書いています。何をどう直したかを確かめられるように、経緯をここに残しています。

  • この記事は「脚は最大の筋群である」と「急性のホルモン上昇の因果は複数の研究で否定されている」の2つを前提に議論を組み立てていた。どちらも収録した出典が支えていない。 Janssen ら(2000)が述べているのは加齢による絶対的な筋量の減少が主に下肢の減少によるということまでで、最大の筋群だとは述べていない。急性ホルモンについては、収録4件のうち Rønnestad ら(2011)が逆の結果を報告しており決着していない。これらに依存していた記述を本文から撤回して訂正履歴に移した。 ①「運動直後に一時的に上がるホルモンが筋肥大を生む、という因果は複数の研究で否定されている。」(第1ラウンドの研究側)── 急性のホルモン上昇と筋肥大の因果が複数の研究で否定されているという要約。収録した4件は一致していない。 West ら(2010)・Morton ら(2016)・West & Phillips(2012)は関連を示さなかったが、Rønnestad ら(2011)は脚運動を先に行った側の腕で断面積と1RMの相対的改善が優れたと報告している。 ②「West & Phillips(2012, 56名)も同様で、特にテストステロンは無相関だった。」(第1ラウンドの研究側)── 「同様で、特にテストステロンは無相関」という要約。同コホートでは遊離テストステロン・成長ホルモン・IGF-1と除脂肪量・レッグプレス筋力の相関が無かった一方、コルチゾールは除脂肪量の変化と、成長ホルモンは線維面積の増加と相関している。無相関だったのはテストステロンだけではなく、また成長ホルモンは一部で相関していた。 ③「「スクワットのホルモンで上半身が育つ」は、質の高い研究ではほぼ支持されない。」(第1ラウンドの判定)── 「質の高い研究」という質の順位づけ。研究の質を順位づけられる資料を収録していない。 ④「ただし正直に言うと、Rønnestad ら(2011, 9名)という“脚トレ併用側の腕がやや大きくなった”とする反証も1本ある。」(第1ラウンドの判定)── Rønnestad ら(2011)を「反証も1本ある」「やや大きくなった」と扱っていた。同試験が報告しているのは、脚運動を入れた側でのみ断面積が最大の部位で増加し(p<0.001)、1RMの相対的改善も優れた(p<0.05)ということである。 ⑤「現状は「否定が優勢だが決着はやや残る」と捉えるのが誠実。」(第1ラウンドの判定)── 「否定が優勢だが決着はやや残る」という重みづけ。4件の重みを比べられる資料が無い。 ⑥「少なくとも、脚トレを上半身のための必須条件とみなす根拠は弱い。」(第1ラウンドの判定)── 脚トレを必須条件とみなす根拠が弱いという評価。上と同じ理由で言えない。 ⑦「“ホルモンで上半身が育つ”という機序は上のラウンドで否定されるが、「脚を飛ばすと損をする」という主張自体は、ホルモンとは別の量的な事実で支えられる。」(第2ラウンドの研究側)── 命題は2つある。(a) ホルモンの機序が前のラウンドで否定されていること、(b) 「脚を飛ばすと損をする」が量的な事実で支えられること。Janssen ら(2000)は脚トレの有無を比べておらず、鍛えなかった場合の損失を測っていない。 ⑧「下肢は身体で最も大きな筋肉のかたまりだ。」(第2ラウンドの研究側)── 下肢が身体で最も大きな筋群だという記述。同研究はそう述べていない。述べているのは、加齢による絶対的な筋量の減少が主に下肢の減少によるということである。 ⑨「つまり脚を鍛えないことは、全身の筋量の大きな割合を伸ばさないまま放置することを意味する。」(第2ラウンドの研究側)── 脚を鍛えないと全身の筋量の大きな割合を放置することになるという帰結。 ⑩「加えて、見た目のバランスや下半身の筋力・日常動作の土台としても脚の役割は大きい。」(第2ラウンドの研究側)── 見た目のバランス・日常動作の土台としての役割。これらを扱った研究を収録していない。 ⑪「下肢が量的に大きいこと自体は解剖学的に広く受け入れられている前提である。」(第2ラウンドの研究側)── 「解剖学的に広く受け入れられている前提」という書き方で、出典なしに下肢が量的に大きいことを前提化していた。 ⑫「「脚は土台」という表現はやや比喩的だが、方向としては妥当。」(第2ラウンドの判定)── 「脚は土台」という通説の方向が妥当だという判定。 ⑬「ホルモンを介して上半身を育てるからではなく、脚そのものが最大の筋群であり、鍛えなければ総筋量・見た目のバランス・下半身の筋力で確実に損をするから。」(第2ラウンドの判定)── 脚が最大の筋群であり、鍛えなければ総筋量・見た目・筋力で確実に損をするという因果。 ⑭「“フレーム”を全身の筋量とバランスの意味に取れば、脚トレの価値は研究とも整合する。」(第2ラウンドの判定)── 「フレーム」の解釈を変えれば研究と整合するという読み替え。 ⑮「加齢に伴う筋量減少は主に下肢で起こる」(第2ラウンドの研究側)── 加齢による筋量減少が下肢で起こるという記述。抄録が述べているのは、絶対的な筋量が減りはじめるのが第5十年期の終わり(50歳ごろ)で、その減少が主に下肢によるということである。⑯「50代の終わり以降に見られる絶対的な筋量の減少は主に下肢の減少による」(第2ラウンドの研究側)── 上を直したときに、抄録の "the end of the fifth decade" を「50代の終わり」と読み違えた。正しくは50歳ごろである。訂正後の文が原文とほぼ同じ語になるため、本文の言い回しを変えたうえで原文を記録している。 ⑰「上半身の成長そのものは、脚トレの有無にほとんど左右されない。」(第3ラウンドの研究側)── 上半身の成長が脚トレの有無にほとんど左右されないという断定。収録2件は結論が逆である。 ⑱「West ら(2010)やMorton ら(2016)が示すとおり、腕や胸の筋肥大を決めるのは、その部位に十分な刺激・ボリューム・追い込みを与えられるかであって、脚トレ由来の全身ホルモンではない。」(第3ラウンドの研究側)── 筋肥大を決めるのは部位への刺激・ボリューム・追い込みだという説明。West ら(2010)が測ったのは肘屈筋で、刺激量を比べた試験ではない。 ⑲「したがって、目的が上半身の見た目だけなら、脚を飛ばしても上半身の伸びが大きく削がれることはない。」(第3ラウンドの研究側)── 脚を飛ばしても上半身の伸びが削がれないという帰結。 ⑳「一方で、それは“全身の筋量やバランスを諦める”選択でもある——脚は最大の筋群だからだ(Janssen 2000)。」(第3ラウンドの研究側)── 全身の筋量やバランスを諦める選択だという評価と、脚が最大の筋群だという前提。 ㉑「「上半身だけ鍛えたい」という目的に限れば、脚を飛ばしてもその上半身の発達は妨げられない——“脚をやらないと腕が伸びない”は誤り。」(第3ラウンドの判定)── 「脚をやらないと腕が伸びない」を誤りと断定していた。Rønnestad ら(2011)は逆の結果を報告しており、決着していない。 ㉒「ただし総筋量・全身のバランス・下半身の筋力を重視するなら、最大の筋群である脚を外す合理性は乏しい。」(第3ラウンドの判定)── 最大の筋群である脚を外す合理性が乏しいという判定。 ㉓「要は「必須」ではなく「目的次第」。」(第3ラウンドの判定)── 「必須ではなく目的次第」という総括。目的別の適否を比べた研究を収録していない。
    撤回した原文23件

    公開されていた本文の文字列です(運営者による要約ではありません)。現在の本文に残っていないことは、ビルドのたびに機械で検査しています。過去の公開内容に含まれることは、変更履歴の全体と突き合わせる検査を用意していますが、これは全履歴が必要なため公開ビルドでは自動実行していません。どちらの照合も、また上の表示も、強調の印(アスタリスク2つ)と改行・空白の違いは無視します。1件に複数の記述が含まれる記録もあるため、件数は原文の件数であって撤回した主張の数ではありません。

    1. 運動直後に一時的に上がるホルモンが筋肥大を生む、という因果は複数の研究で否定されている。
    2. West & Phillips(2012, 56名)も同様で、特にテストステロンは無相関だった。
    3. 「スクワットのホルモンで上半身が育つ」は、質の高い研究ではほぼ支持されない。
    4. ただし正直に言うと、Rønnestad ら(2011, 9名)という“脚トレ併用側の腕がやや大きくなった”とする反証も1本ある。
    5. 現状は「否定が優勢だが決着はやや残る」と捉えるのが誠実。
    6. 少なくとも、脚トレを上半身のための必須条件とみなす根拠は弱い。
    7. “ホルモンで上半身が育つ”という機序は上のラウンドで否定されるが、「脚を飛ばすと損をする」という主張自体は、ホルモンとは別の量的な事実で支えられる。
    8. 下肢は身体で最も大きな筋肉のかたまりだ。
    9. つまり脚を鍛えないことは、全身の筋量の大きな割合を伸ばさないまま放置することを意味する。
    10. 加えて、見た目のバランスや下半身の筋力・日常動作の土台としても脚の役割は大きい。
    11. 下肢が量的に大きいこと自体は解剖学的に広く受け入れられている前提である。
    12. 「脚は土台」という表現はやや比喩的だが、方向としては妥当。
    13. ホルモンを介して上半身を育てるからではなく、脚そのものが最大の筋群であり、鍛えなければ総筋量・見た目のバランス・下半身の筋力で確実に損をするから。
    14. “フレーム”を全身の筋量とバランスの意味に取れば、脚トレの価値は研究とも整合する。
    15. 加齢に伴う筋量減少は主に下肢で起こる
    16. 50代の終わり以降に見られる絶対的な筋量の減少は主に下肢の減少による
    17. 上半身の成長そのものは、脚トレの有無にほとんど左右されない。
    18. West ら(2010)やMorton ら(2016)が示すとおり、腕や胸の筋肥大を決めるのは、その部位に十分な刺激・ボリューム・追い込みを与えられるかであって、脚トレ由来の全身ホルモンではない。
    19. したがって、目的が上半身の見た目だけなら、脚を飛ばしても上半身の伸びが大きく削がれることはない。
    20. 一方で、それは“全身の筋量やバランスを諦める”選択でもある——脚は最大の筋群だからだ(Janssen 2000)。
    21. 「上半身だけ鍛えたい」という目的に限れば、脚を飛ばしてもその上半身の発達は妨げられない——“脚をやらないと腕が伸びない”は誤り。
    22. ただし総筋量・全身のバランス・下半身の筋力を重視するなら、最大の筋群である脚を外す合理性は乏しい。
    23. 要は「必須」ではなく「目的次第」。

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吉村 浩嗣

執筆

吉村 浩嗣

BODYDATA運営者 / INVOLVE代表

「なんとなく良さそう」で選ばない。データで確かめてから体で試す、を続けています。

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染田 智信

監修: 染田 智信

トレーニング指導とサプリメント業界での実務経験の観点から内容を確認しています

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